2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25400294
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
原 和彦 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (20218613)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ヒッグス粒子 / 湯川結合 / ヒッグスττ崩壊 / ヒッグスbb崩壊 |
Outline of Annual Research Achievements |
質量の根源とされるヒッグス粒子は、LHC加速器のATLASおよびCMS実験により、2013年までにその存在が確立された。発見モードは、H→ZZ、γγ、WW崩壊であり、いづれもゲージ粒子(γγではトップクォークの寄与があるが限定的)との結合であり、「ヒッグスはゲージ粒子に質量を与える」は正しいことが実証できた。本研究は、ゲージ粒子以外のレプトンやクォークにも質量を与えるかの湯川結合の測定に関する研究である。 ATLAS実験に参加している筑波大グループは、まずレプトンへの崩壊モードとしてτ対への崩壊を測定した。最初の結果は、2012年度の塙氏の博士論文にまとめられ、その解析手法を発展させ、生成断面積は、標準模型で期待される値で規格化して、μ=1.43+0.43-0.37の測定結果を得た[論文1:出版受諾]。これは4.5σの統計的有意度の観測結果であり、ヒッグスがτレプトンに質量を与えている強い証拠となる。 引き続き、ボトム対への崩壊モードの観測に取り組んだ。ボトムはQCD相互作用で頻繁に生成されるので背景事象との区別が難しいが、特に多変数解析の手法を駆使してATLAS実験グループとしての最終結果をまとめることができた。ボトム対に関してはμ = 0.52 ± 0.32 (stat.) ± 0.24 (syst.) を得た[論文2]。これは統計的有意度では1.4σに留まった。中央値が標準模型で期待する値の約半分だったことが主な原因である。しかし、解析手法の感度自体は 2.6σと評価され、これはCMS実験の感度を上回る。 この成果は、2014年度、木内氏の博士論文、"Search for the Standard Model Higgs boson decaying to a bottom-quark pair with the ATLAS detector”にまとめられている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
LHC加速器では2012年までをRUN-1とし、ATLAS実験は約25/fbのデータを収集して、最大目標であるヒッグス粒子の発見に成功した。本研究課題は発見後の2013-15年にわたりヒッグス粒子のレプトン対への崩壊とクォーク対への崩壊を研究するもので、それぞれの代表モードとしてτレプトン対およびボトムクォーク対への崩壊を通じ湯川結合を測定するものである。2014年度までに両モードでの測定について、主に、多変数解析を用いる解析方法を確立して、ATLAS実験グループとしての最終測定結果までをRUN-2の再開前にまとめることができた。この点に関しては、予定通りの進展と判定できる。τについては4.5σの有意度で、期待以上の成果を上がることができた。しかし、ボトム対に関しては、期待される測定感度はCMS実験と同等以上であるが、統計ゆらぎのために1.4σの有意度に留まり、目標とした3σに達しなかった。統計の問題ではあるが、ボトムに関する湯川結合はまだ確立できていない。 研究計画に挙げた海外研究者との共同研究に関しては、毎年1-2か月の共同研究を進めることができ、特に学生には英語での研究環境が加わることでのインパクトが与えられ、この点でも順調である。 2015年より再開されるRUN-2では一層の統計数の蓄積と測定感度の向上をめざし、5σ以上の測定を目指すことで、標準模型とのずれがあるかの結論を得ることで、本研究の最終目標を達成できると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は研究計画の最終年にあたる。RUN-1ではτレプトン対は4.5σ、ボトムクォーク対は1.4σの有意度で観測できた。τについてはCMSの結果と合わせれば5σ以上となり、ヒッグスがレプトンに質量を与えている湯川結合の存在を確立できた。一方、ボトムは統計的には全く確立に至っていないため、ヒッグスがクォークに質量を与えるかを明確にしたい。 RUN-2ではビームエネルギーが13ないし14TeVに上がることでヒッグス粒子の生成数が増加し、データ蓄積を継続することで統計誤差は飛躍的に小さくできることが期待される。多くの系統誤差もデータ事象を用いることで、統計とともに評価精度を一層向上できる。すでに開発した多変数解析も同様に新データに適用できる。 昨年度までは、τ対およびボトム対それぞれに大学院生を配置して研究を進めてきた。RUN-2では、ボトム対に加えて、新たにトップへの湯川結合を観測することが期待できるため、新たな大学院生とともにこの測定モードの解析を進める。 まずはトップ対の生成を詳細に計測することで背景事象を理解する。そのため、RUN-1の8TeVでの生成断面積の測定をまとめる。この研究を通じてトップ対の再構成方法の理解および最適化を進める。また、大きな運動量をもって生成されるトップクォークの崩壊からのジェットは互いに分離されずに発生し、従来の方法では再構成できない。事象数を増やすためにも、このようなトップを有効に再構成する方法を研究する。 ボトムへの湯川結合の測定および新たに加えるトップ湯川結合の測定を通じて、アップタイプおよびダウンタイプのクォーク両方に質量を与えるかの検証が可能になる。
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