2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25400313
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
鈴浦 秀勝 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10282683)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | ディラック電子 / グラフェン / 光吸収 / スピンホール効果 / スピン偏極 |
Research Abstract |
ディラック電子を有する代表物質であるグラフェンにおける強電場変調吸収スペクトルを計算した.電荷を注入しない場合,エネルギーギャップが存在しないことから,光吸収スペクトルは,ゼロエネルギーから立ち上がり,周波数に依存しない一定の振幅を持つことが知られている.そこに,面内電場を印加すると,電場を打ち消すように,静電ポテンシャル勾配の方向に電荷の再配置が起こり,フェルミエネルギーが空間的に変動する.パウリ原理により,占有された状態には遷移が生じないことから,低周波数領域に吸収飽和が生じることになる.つまり,グラフェンの面内電場による光吸収変調は,吸収強度の減少として現れることを明らかにした. これと並行して,2次元電子系に対するラシュバ型のスピン軌道相互作用に起因した電流誘起スピン偏極の空間分布を調べるために,これまでに開発した,局所スピン電位を求める計算手法を,4端子系に適用し,スピンホール効果により電流と垂直方向にスピン流が生じる系における,スピン偏極の空間分布を計算した.ラシュバ型スピン軌道相互作用は,バルクにおいては,スピン流は発生しない.しかし,有限系においては,スピンホールコンダクタンスはゼロにはならないことが確認されており,実際,スピン偏極の空間分布も,試料端に局在していることを明らかにした.ゲート電場により電荷密度を制御し,フェルミエネルギーをディラック点近傍で変化させることで,バルクにおいてスピン偏極に大きな変動が見られたが,弱い不純物散乱により消失することを確認した. さらに,トポロジカル絶縁体と呼ばれる,端に局在したディラック型の分散を示す状態によってスピン偏極が実現している物質系に対する拡張を行い,予備的な計算により,端状態による散乱を受けないスピン輸送を確認した.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
グラフェンにおける電場変調光吸収スペクトルに対しては,単純な模型により,吸収飽和が予言され,その機構も明快であり,実験による検証も可能であると期待される.全体として,大きく分けて,3つのテーマを扱う計画であり,当初の予定では,電荷ドープしたカーボナンナノチューブの光学応答を先に調べる予定であったが,順番を変更して,2次元ディラック電子系に対する,電流誘起スピン偏極についての研究を先行して実施した.既存の手法を4端子系に拡張し,スピン流を取り出せる系に対する,スピン偏極の計算が可能となり,トポロジカル絶縁体に対する詳細な計算も進行中である.研究計画全体としては,研究目的の達成に向けて,順調に,進展している.
|
Strategy for Future Research Activity |
3つのテーマに関して,順序の変更はあったものの,全体としては,当初の計画通りに実施する予定であり,それぞれについて,より具体的な方策を述べる. グラフェンにおける電場変調スペクトルは,定量的評価に向けて,電荷再配置による電場の遮蔽効果を取り入れた計算を実行する. ディラック電子系による電流誘起スピン偏極に関しては,トポロジカル絶縁体に対する詳細な計算を実行し,安定な端状態による,スピン輸送とスピン偏極の空間分布を明らかにする. 電荷ドープされたナノチューブの光学応答は,遮蔽効果の光励起状態への影響を明らかにした後,励起子状態の重心運動による分散関係まで計算し,吸収のみならず発光までを議論可能な理論模型を構築する.
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ワークステーションを,交付申請を行った際に想定した金額よりも,低価格で購入できたため. 研究遂行に必要となる参考文献の購入に充当する.
|