2013 Fiscal Year Research-status Report
ペロブスカイト型強誘電体モルフォトロピック相境界近傍物質の温度電場相図
Project/Area Number |
25400323
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
岩田 真 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40262886)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
前田 雅輝 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10091745)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 強誘電体 / 電場誘起相転移 / 構造相転移 / モルフォトロピック相境界 / 電場相図 / 臨界点 / ペロブスカイト / 誘電率 |
Research Abstract |
ペロブスカイト型酸化物強誘電体混晶である Pb(Zn1/3Nb2/3)O3-PbTiO3 (PZN-PT) と Pb(Mg1/3Nb2/3)O3-PbTiO3 (PMN-PT) は、現在知られている強誘電体中で最も高い電気機械結合係数 (90%以上) を示す混晶系であり、実際に医療用高感度超音波デバイス材料として実用化されている。このようなペロブスカイト型強誘電体混晶の大きな誘電圧電特性は、モルフォトロピック相境界 (MPB) と呼ばれる相境界近傍において発現することが知られている。 1998年に、Ishibashi と Iwata は、モルフォトロピック相境界 (MPB; Morphotropic Phase Boundary) 近傍の大きな誘電・圧電応答の原因は分極の異方性エネルギー(自由エネルギーの異方性)が MPB 近傍で著しく小さくなることであると提案した。これによって異相間や分域間のエネルギー障壁が著しく小さくなること、および自発分極に垂直方向の応答が大きくなることを説明した。2000 年には、Fu と Cohen が第一原理計算結果を基に同様の機構を提案した。 このように、MPB 近傍の大きな応答の原因は、自由エネルギーの異方性が分極空間で著しく小さくなることであると理論的に指摘されているが、ナノドメイン (polar nanoregion; PNR) や相共存状態による不均一構造のために実験的検証は充分に進んでいない。この系では、物性の大枠の理解が必要である。 更に、このような実用材料の特性を解明することは、物性物理学だけでなく、物性工学の観点からも重要である。 本研究では、マクロな視点から物性の大枠の理解を目的として、単結晶試料に様々な方向の DC 電場を印加して、MPB 近傍物質の温度電場相図を明らかにし、マクロな平均構造としての熱力学的平衡状態を決定する。この結果を基にして、物質探索と強誘電体材料開発の基礎の確立を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度、マクロな視点から複合ペロブスカイト型強誘電体混晶の物性の大枠を理解することを目的として、[001]-, [011]-, [111]-方向の DC 電場を試料に印加して、MPB 近傍物質の温度電場相図とその異方性を明らかにする研究を行った。以下に平成25年度の具体的な成果を示す。 1.DC 電場下の誘電率測定装置の改良: 本研究では、DC 電場印加状態で誘電率が測定できる装置を使用する。本装置は、最大 800 Vの電圧まで印加可能である。試料とゲインフェースアナライザーの間には、ハイパスフィルター用のコンデンサーが使用されていて、本研究では、それを補正するために、オリジナルの等価回路を仮定して、オープン・ショート・ロード補正を行っている。本年度は、測定値の補正方法を改良した。 2.PZN-PT混晶系の熱平衡状態の平均構造の解明: Pb(Zn1/3Nb2/3)O3-xPbTiO3 (PZN-xPT) 混晶のエンドメンバーであるPZNはリラクサーとよばれ、散漫な相転移を示すことが知られている。このことから、濃度温度相図上の相境界は不明であったが、本研究により、菱面体晶相都政方晶相の間の斜方晶相の安定領域を除いて、x = 4.5, 6, 7, 8, 9% の組成の温度電場相図を明らかに出来た。 誘電率は構造相転移に非常に敏感な量であり、温度電場相図を調べるときのDC電場が不均一構造を消すので、マクロな系の平均構造としての熱力学的平衡状態を解明するには最適の方法であるあることがわかった。本年度は、PZN-xPT だけでなく、PMN-29.5%の電場相図も明らかに出来た。 本年度の計画に、斜方晶相の安定領域を明らかにすることを目的にして、現在、安定領域の研究を行っているが、この物質は経歴依存性が強いことから、実験に時間がかかっている。斜方晶相の安定領域の解明は来年度に行う。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で、これまでに明らかにしてきた相図における相境界を電場ゼロまで外挿した点は、電場によってドメイン(または PNR)のような不均一性を取り除いた平均構造としての物質固有の熱平衡状態でおこる転移点と考えられる。本研究では、温度電場相図の研究で明らかにされた平均構造としての相境界を電場0まで外挿し、PZN-PT混晶の熱平衡状態における平均構造の温度濃度相図を正しいものに書き換えることを計画している。平成25年度に明らかに出来なかった斜方晶相の安定領域の解明もおこなう。 さらに、この物質はリラクサーと呼ばれ、不均一構造により相転移が散漫になり、物性の理解を難しくしていたが、本研究により、電場で不均一構造を減らすと、その物性の本質的な部分は、通常の構造相転移として理解できることを明らかにした。次年度以降もこの線に沿って研究を展開したい。 一方、この不均一性を作っている PNR と呼ばれる極性の領域は、Burns 温度と呼ばれる温度以上で消滅すると考えられている。本研究では、電場印加による方法以外に、このBurns 温度以上の物性測定から均一系の物質としての物性解明に取り組みたい。
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