2014 Fiscal Year Research-status Report
電子正孔系・セミメタル系・Dirac電子系における多体効果と光学応答の理論
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25400327
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
浅野 建一 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (10379274)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 電子正孔系 / 励起子 / モット転移 / 励起子絶縁相 / ボーズ・アインシュタイン凝縮 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1) 二次元電子正孔系のグローバル相図 光で強励起した量子井戸で実現される二次元電子正孔系を,我々が新たに開発した自己無撞着 T 行列近似を使って扱い,グローバル相図を作成して,その結果を論文にまとめた.この理論では,電子正孔間,電子間,正孔間の二体相関(特に電子正孔間の励起子相関) を T 行列を通じて取り入れ,その情報を電子や正孔の自己エネルギーに自己無撞着に反映させる.さらにこのとき,励起子のイオン化率と相互作用の遮蔽パラメータを自己無撞着に決定している.電子正孔密度と温度の平面上で得られた相図は,励起子気体と電子正孔液体の間の移り変わりが,概ね古典量子クロスオーバーとして理解できることを示している.また,低温領域においてイオン化率がほとんど不連続に変化する相転移的な振る舞いが見られることも明らかになった. (2) カーボンナノチューブ上の荷電励起子 カーボンナノチューブ上の荷電励起子の微細構造について調べた.その結果最もエネルギーが低い荷電励起子が,暗励起子と正孔(または電子) の束縛状態に近い性格を持つことがわかった.それにもかかわらず,この励起子は光学許容であり,発光スペクトルで観測可能である.さらに,励起状態も含めて,状態を対称性によって分類する理論を作り,それらの束縛エネルギーを計算した.この結果を実験グループとの共著の論文にまとめた. (3) カゴメ格子ハバード模型 多軌道ハバード模型は電子正孔系と深い関わりを持っている.その観点から多軌道ハバード模型を扱う計算手法の開発にも力を入れている.その一環として,ハーフフィリングのカゴメ格子ハバード模型を,変分クラスター法を用いて調べた.その結果 Mott 絶縁体となった後も強結合極限に至るまで非磁性相が続くことがわかった.また,その原因が valence bond 形成にあることを明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度に引き続き,電子正孔系の理論の枠組みの整備は順調に進んでおり,特に二次元電子正孔系の相図に関する成果を論文にまとめることができたのは大きい.今後はさらなる理論の拡張に取り組む予定である.反省点としては,電子正孔系に対する扱いを Dirac 電子系やナローギャップ半導体の理論に拡張する作業に遅れがあることが挙げられる.
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Strategy for Future Research Activity |
(1)理論の拡張:我々の理論の特徴は,イオン化率の情報を遮蔽効果へフィードバックさせている点にあるが,この部分は半現象論的な扱いに留まっている.励起子形成による遮蔽の抑制効果を表す分極のダイヤグラムを考慮したより第一原理的な扱いを目指す.高強度テラヘルツ光源を用いた,バンド内光吸収の観測データと対比できる計算手法を開発することを目指す. (2)バンドギャップ制御・Dirac電子系への応用:バンドギャップ制御の問題や Dirac 電子系の問題に取り組むために (a) バンド間遮蔽の効果,(b) バンドの非放物線性,(c) 非放物線性に連動して現れるオージェ緩和の効果について考える. (3)南部形式への拡張:我々の理論を対凝縮状態も扱えるように拡張する.これにより,低密度と高密度の凝縮相が単にクロスオーバーで繋がるのか,両者間に一次相転移があるのかという問いに答えることができる.長距離相互作用の効果でBEC-BCS クロスオーバーの描像が壊れれば,非常に大きな発見となる. (4)励起子分子相関の考慮:荷電励起子的(2 電子+1 正孔,1 電子+2 正孔)あるいは励起子分子的(2電子+2 正孔)相関を取り込めるように理論を拡張する. (5)新奇量子相の探索:電子と正孔を異なる二次元面に閉じ込めた系で現れる新奇量子相の探索に取り組む.特に電子と正孔の密度が同じ場合に現れる可能性がある超固体相に興味がある.この系に特有の輸送現象であるクーロンドラッグについても調べたい.
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Causes of Carryover |
当初計画では,カーボンナノチューブの荷電励起子や励起子分子の研究は,28年度に行う計画であったが,これが予想より早く進展した.その結果を発表するために海外で行われた国際会議に出席したために,旅費が不足してしまい,前倒し請求を行った.しかし,前倒し請求分の全額を使用しなくてすんだために,次年度使用額が生じている.これにより当初の計画に大きな影響を与えずにすむことになった.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
基本的に次年度使用額については,当初計画どおりに用いる.比較的少額なので,合算して物品費に当てるか,国内旅費として使用する.
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