2014 Fiscal Year Research-status Report
フラストレートした磁性体における量子スピン液体の研究
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25400345
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
門脇 広明 首都大学東京, 理工学研究科, 准教授 (70194876)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 磁性 / フラストレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、量子スピン液体状態だろうと言われているフラストレートした磁性体 Tb2Ti2O7 の基底状態を実験的に究明することである。研究当初に以下の仮説を立てた。この系は Tb{2+x}Ti{2-x}O{7+y} と書くべきものであり微小な x (and y) に依存して基底状態が変化する。 x > x_c = -0.002 では、0.5 K 付近で電気的4極子秩序が起こると同時に微小磁気モーメントの反強磁性体になる。一方 x < x_c では、この系はスピンと4極子の両者が量子力学的に揺らいだ液体的基底状態になる。 この仮説を検証するには、Tb{2+x}Ti{2-x}O{7+y} の純良単結晶を育成することが最重要課題であり、2013 年度に、数 mm 程度の大きさの長距離秩序を持つ領域(x > x_c)の純良単結晶を育成することに成功した。2014 年度にはこの単結晶を用いて、比熱、磁化、中性子回折実験を用いた実験を行った。これらの実験結果が、電気的4極子秩序状態を示すものかどうか?を調べるために、classical MC simulation、 MF-RPA 近似計算を用いた解析を行うと共に、理論家の助けを借りて quantum MC simmulation を用いた解析も行った。2015年3月の時点で、長距離秩序を持つ Tb{2+x}Ti{2-x}O{7+y} は電気的4極子秩序状態であり、理論的には4極子状態とU(1)量子スピン液体状態の境界付近に位置しているものと考えられることが分かった。この結果は、3月の物理学会で発表を行い、現在論文を執筆中である。 2014 年度は、より大型の純良単結晶を育成して中性子非弾性散乱を行う計画であったが、こちらは結晶育成法における困難に遭遇して苦戦中である(see 現在までの達成度)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の成否は Tb_{2+x}Ti_{2-x}O_{7+y} の純良単結晶を育成することが重要と考えていた。2013 年度中に 2-3 mm 程度の純良単結晶が得られた。2014 年度中には、中性子非弾性散乱が実験可能な、20 mm 以上の大型純良単結晶を育成できるであろうと楽観的に考えていたが、これが想像以上に困難な仕事であることが分かって来た(というよりも、研究を行ってようやく気がついたと言うべきである)。この問題は、結晶育成を支配する相図が予想外に複雑になっているために熱理学的な意味で起こるべくして起こった問題と言ってよい。結晶育成は非平衡状態下で起こる現象を利用しているため、問題の解決方法が無いことはなく、いくつかの方法を試し、現状では 10-15 mm 程度の純良単結晶なら育成可能になったといった状況である。当初の研究計画から1年弱の遅れが生じているため、研究期間を1年間延長する申請を提出する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の仮説の一方「x > x_c = -0.002 では、0.5 K 付近で電気的4極子秩序が起こる」は、現在(2015年4月)この結論を書く論文執筆にまで到達した。この意味で、近日中に研究の半分程度は達成できるだろう。もう一方の仮説「x < x_c では、この系はスピンと4極子の両者が量子力学的に揺らいだ液体的基底状態である」に関しては、今後の課題である。このための小型結晶は準備したので、比熱の実験データ等は 2015 年度に出せるだろうと考えている。 大型の純良単結晶育成に関しては1年程度の遅れが生じてしまっており、非弾性中性子散乱の実験を行うまでにはもう少し時間がかかるだろう。中性子非弾性散乱実験のビームタイム申請は ILL-IN5 と ISIS-LET にそれぞれ2015年2月と2015年4月に提出した。人気の装置(競争倍率が非常に高い)であるが、1年以内には実験を行いたい。大型の純良単結晶育成は(若干複雑で失敗しやすいが)方法が分かっているので、後は実行あるのみと考えている。
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Causes of Carryover |
現在までの達成度に記述したように、研究計画の進行が1年程度遅れており、研究期間を1年間延長する申請を提出する予定である。このため次年度使用額が残るようにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
予算は以下の目的に使う。(1) 結晶育成のための薬品、ハロゲンランプ、FZ炉周辺装置の整備費用。(2) ようやく安定に稼働するようになったソープションタイプの3He クライオスタットを用いて磁化測定できるようにする。このため、オレンジクライオスタット内に入るマグネットの購入し、測定システムのコンピューターなどを整備する。(3) 中性子非弾性散乱実験は、低温の実験条件からJPARCでは不可能であるため ILL(仏)ISIS(英)まで出かけて行く必要がある。このための海外旅費と、国内外の学会発表用の旅費。
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Research Products
(6 results)