2013 Fiscal Year Research-status Report
格子との結合に着目したフラストレート系スピネルにおけるスピン分子状態の研究
Project/Area Number |
25400348
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
渡辺 忠孝 日本大学, 理工学部, 准教授 (70409051)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | フラストレーション / 超音波 / 弾性異常 / バナジウムスピネル / 軌道揺らぎ / スピン・軌道励起 / フェライトスピネル / スピン分子励起 |
Research Abstract |
本研究課題は、幾何学的フラストレート系スピネル化合物を研究対象として、主として超音波音速測定により新奇な磁気揺らぎおよび磁気励起の研究を行うものである。平成25年度の研究実績は以下の通りである。 軌道縮退系フラストレートスピネルMgV2O4について、純良単結晶を用いた超音波音速測定を行った。バナジウムスピネルAV2O4(A = Mg, Zn, Cd)は、構造相転移(Ts)と反強磁性転移(TN)の逐次相転移(Ts>TN)を示す物質であり、スピン・軌道・格子の複合自由度とフラストレーションの協奏により、軌道整列などの新奇物性が発現すると考えられている。本研究では、MgV2O4の無秩序相(常磁性立方晶相)のスピン・軌道・格子状態を研究することを目的とした。MgV2O4の構造相転移および反強磁性転移は乱れに極めて脆弱であり、乱れが僅かに導入された試料ではスピングラス挙動が発現することが知られている。本研究では、逐次相転移を示す純良単結晶(オーダー試料)と、VサイトのMg置換(乱れの導入)によりスピングラス挙動を示す単結晶(乱れ試料)の2種類のMgV2O4単結晶試料について、無秩序相(T>TS)での全ての独立な弾性モードの音速の温度依存性を測定した。その結果、オーダー試料では、軌道揺らぎに由来するキュリー型のソフト化と、磁気励起に由来する低温で極小を示すソフト化(極小ソフト化)の2種類のソフト化が弾性モードに依存して観測された。一方、乱れ試料では、全ての弾性モードで極小ソフト化が観測された。以上の実験結果は、MgV2O4の無秩序相において、構造相転移の前駆現象である軌道揺らぎと、短距離磁気相関の発達を反映した磁気励起が共存していることを示唆するものである。また本実験結果は、MgV2O4の構造相転移とその前駆現象である無秩序相での軌道揺らぎが乱れに脆弱であることを示唆するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は、当初の計画ではZnFe2O4とCdFe2O4、およびそれらの混晶の超音波測定を行い、MgV2O4を含むその他の研究対象物質は単結晶作製を行う予定であった。しかし、共同研究機関からMgV2O4の逐次相転移を示す純良単結晶に加えて、スピングラス挙動を示す単結晶も提供してもらったため、平成25年度は予定を変更してMgV2O4の超音波測定に重点を置き研究を進めた。その結果、MgV2O4については当初期待していたよりもはるかに多くの興味深い研究成果を得ることができた。また平成25年度の後半からは、ZnFe2O4についても併行して超音波測定を行い、当初期待していた通りの興味深い研究成果を得つつある。 MgV2O4とZnFe2O4の研究成果については、平成26年度中に学術論文を発表する予定である(現在執筆中)。 MgV2O4とZnFe2O4以外の研究対象物質については、平成25年度に単結晶作製を試みたが、まだ単結晶作製の成功には至っていない。現在も単結晶作製を試みているところである。 以上のように、平成25年度に行った研究の中には、当初の計画以上に進展した研究もあれば、進展が滞っている研究もある。しかし全般的に判断すると、本研究課題はおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、当初の計画で研究対象とした物質のうち、既に単結晶を確保しているMgV2O4とZnFe2O4以外のスピネルの単結晶作製を行う。このうち既に単結晶作製手法を確立しているフェライトCdFe2O4とその混晶(CdZn)Fe2O4については、できるだけ早く単結晶作製を完了し、超音波測定を行う予定である。 また、当初の計画にはなかったが、軌道縮退系フラストレートスピネルCoV2O4およびペロブスカイトLa(CoNi)O3について、共同研究機関より単結晶の試料提供を受けたので超音波測定を行う予定である。 CoV2O4は、Aサイトを磁性Coイオンが占めることを反映して、Aサイト非磁性のAV2O4とは異なる複雑な逐次相転移を示す。したがって、CoV2O4はAサイト非磁性のAV2O4とは異なる磁気揺らぎおよび磁気励起が生じていると考えられる。超音波音速測定によって、磁気揺らぎ/励起由来の弾性異常を観測できるものと考えている。 LaCoO3は、Coイオンのスピン状態が温度上昇に伴い非磁性基底状態から低スピン、中間スピン、高スピン状態へとスピン転移する物質であると考えられている。LaCoO3自体はフラストレート系ではないが、最近CoサイトにNiを僅かにドープした混晶La(CoNi)O3において、フラストレート系におけるスピン分子励起と酷似した単分子磁石励起と呼ばれる新奇な磁気励起が観測されている。超音波音速測定によって、磁気励起由来の弾性異常を観測できるものと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度において、国際会議、国際学会の外国旅費支出が当初の計画よりも多くなることが見込まれる上に、当初の計画にはなかった物質(CoV2O4とLa(CoNi)O3)の超音波測定を追加で行う予定であるため、次年度の外国旅費および超音波測定関連の物品費を確保する目的で、次年度使用額を生じさせた。 次年度は国際会議、国際学会の旅費支出が多くなることが見込まれるため、次年度使用額は次年度の外国旅費として使用する予定である。また、当初の計画にはなかった物質(CoV2O4とLa(CoNi)O3)の超音波測定を追加で行う予定であるため、次年度使用額はその超音波測定に必要な物品費としても使用する予定である。
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Research Products
(18 results)