2013 Fiscal Year Research-status Report
低次元分子性導体の電子状態の制御に関する理論的研究
Project/Area Number |
25400370
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
吉岡 英生 奈良女子大学, 自然科学系, 教授 (40252225)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
土射津 昌久 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70362225)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 分子性固体 / 電荷秩序 / 量子ゆらぎ / くりこみ群 / 物性理論 |
Research Abstract |
擬一次元分子性導体TPP[Co(Pc)(CN)2]2で観測されている正の磁気抵抗効果の理論的考察を行った。この効果は実験結果よりゼーマン効果に起因することが予想される。そのため一次元拡張ハバード模型に外部磁場によるゼーマン効果を取り入れた模型を用いた。理論的研究の第一歩としてこの模型に対して平均場近似を適用してた。この模型は有限温度で磁気秩序を伴わない純粋な電荷状態を示すことが知られているが、外部磁場を増加させるとこの電荷整列の振幅が増加することを見出した。この物質の電気抵抗の原因が電荷秩序揺らぎであると考えられるため、この結果は上に述べた正の磁気抵抗効果を定性的に説明する。さらにこの理論を交替磁場がある場合へと拡張し、交替磁場によっても電荷秩序が増強されることがわかった。 ルテニウム酸化物や鉄系超伝導体の「電子ネマティック相」に動機づけられて、2次元多軌道繰り込み群を開発し2次元(dxz,dyz)-軌道Hubbard模型の解析を行った。電子ネマティック相は、特に鉄系超伝導体では超伝導相に近接して実現するため、超伝導発現機構を解明する鍵として注目されている。これまでのRPAによる解析からは、電子ネマティック状態を再現することができず、その機構の解明はなされていなかった。本研究では、RPAで無視されてきた「バーテックス補正効果」を系統的に取り入れることのできる繰り込み群法を2次元多軌道系に拡張し、さらに、高エネルギー散乱効果についてRPAによる補正を取り込んだ新たな繰り込み群の手法の開発を行った。これにより、軌道感受率の高精度な計算を可能にし、強的軌道揺らぎの発達が見出された。摂動論的考察をあわせて行い、Aslamazov-Larkin 型のバーテックス補正を通して、スピン揺らぎあるいは超伝導揺らぎが強的軌道揺らぎを増強し、電子ネマティック相を実現させることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
擬1次元分子性導体TPP[Co(Pc)(CN)2]2で見出されている正の磁気抵抗効果に関しては、平均場近似の範囲内ではあるが、実験事実を定性的に説明する結果を得ることができた。すなわち、上記物質の電気抵抗の主な原因は電荷秩序の揺らぎであることが知られているが、それを記述する最も単純な模型である拡張ハバード模型を用いて、電荷秩序の振幅が外部磁場によって増強されることを見出した。この結果は、上記現象の理論的理解の第一歩として価値あるものである。また、ルテニウム酸化物や鉄系超伝導体を記述する2次元多軌道模型にくりこみ群を適応する手法を開発し、超伝導発現機構のキーとされる「電子ネマティック状態」を導出することに成功した。この状態は従来の理論的取り扱いでは再現されなかったものである。それゆえ、この成果はくりこみ群が多軌道2次元強相関電子系を取り扱う手法として大変強力なものであることを示したものとして重要な意義をもつ。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、汎関数くりこみ群を用いて充填率1/4の一次元拡張ハバード模型の朝永ラティンジャー液体状態と電荷秩序絶縁体状態の間の量子相転移を議論する。従来はボソン化法に基づいたくりこみ群を用いて議論されてきたが、その手法では、電荷とスピンが分離しているため、擬1次元分子性導体で見出されている磁場の方向に依存しない磁気抵抗効果を議論することはできない。そのため、スピンと電荷が分離していない高エネルギー状態をも適切に取り扱うことのできる汎関数くりこみ群を上記相転移に適用し、この手法の有用性を証明する。そして、平均場近似で無視された量子揺らぎを適切に取り入れるためこの手法を用い、TPP[Co(Pc)(CN)2]2で見出されている正の磁気抵抗効果を考察する。そこでは、この現象に対する量子揺らぎの効果を明らかにする。さらに、上記物質でCoをFeで置換し局在スピンを導入すると電気抵抗が増加し、また磁気抵抗は負となることが知られているが、このような現象についても考察を行う。同時に、電流電圧特性の議論を行うため非平衡状態への拡張も視野に入れて理論を発展させる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究課題において主として用いる研究手法は、1.実際の物質のバンド構造を取り入れて解析的な計算によってくりこみ群方程式を導出する。2.大規模ワークステーションを用いてそれらを解くことにより、多くの知見を得る。という手順である。今年度は当初、数値データ処理や作図に用いるコンピュータ(研究代表者)およびプレゼンテーション用ノート型パーソナルコンピュータ(研究分担者)の購入を予定していたが、上記手法の「2」を実行するには計算処理能力の高いワークステーションが必要であることがわかった。そのため、今年度予定していたコンピュータの購入を見送り、その予算と次年度の予算を合わせて計算処理能力の高いワークステーションを購入することとした。 次年度は、今年度の繰り越し額と次年度の予算を合わせて、研究代表者および研究分担者ともに計算処理能力の高いワークステーションを購入する。
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Research Products
(12 results)