2014 Fiscal Year Research-status Report
低次元分子性導体の電子状態の制御に関する理論的研究
Project/Area Number |
25400370
|
Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
吉岡 英生 奈良女子大学, 自然科学系, 教授 (40252225)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
土射津 昌久 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70362225)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 分子性固体 / 電荷秩序 / 量子ゆらぎ / くりこみ群 / 強相関電子系 / 酸化物 / 超伝導 / 物性理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
局在スピンを含む擬一次元分子性導体TPP[Fe(Pc)(CN)2]2(以下Fe塩と省略)の輸送特性に関して理論的考察を行った。局在スピンを含まない類似物質TPP[Co(Pc)(CN)2]2(Co塩と省略)で電荷秩序が発見されていることから、これらの物質群の電気抵抗の主な原因は電荷秩序もしくはその揺らぎであると考えられている。これまでの実験で得られている結果は以下のとおりである。①Fe塩はCo塩に比べ大きな電気抵抗を持つ。②Co塩は正の磁気抵抗を示すのに対して、Fe塩の磁気抵抗は負となっている。Fe塩の性質を記述する模型である「1次元拡張ハバード模型+局在スピンと電子との相互作用+局在スピン間の相互作用+外部磁場の局在スピンおよび電子系との相互作用」を平均場近似で取り扱い、上記の実験結果を説明できる結果を得た。 また、ルテニウム酸化物SrR2O4におけるトリプレット超伝導の起源を明らかにするため、前年度に開発した2次元汎関数繰り込み群法(RG+cRPA法)による解析を行った。乱雑位相近似で無視されてきたバーテックス補正効果により、(α、β)面由来の波数Qでの強いスピン揺らぎが、波数2Qの軌道揺らぎを増大させることを明らかにした。さらに超伝導感受率を解析し、「軌道揺らぎとスピン揺らぎの協同効果によるトリプレット超伝導」が実現することを明らかにした。これはルテニウム酸化物におけるトリプレット超伝導の発現機構の新たなシナリオを提唱するものである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
局在スピン系と相互作用する擬一次元分子性導体TPP[Fe(Pc)(CN)2]2の輸送特性は平均場近似の範囲内で定性的に理解することができることがわかった。この結果は、局在スピンと相互作用する低次元電子系の理解の第一歩として重要な役割を持っていると考えられる。また、研究分担者が開発した新しい汎関数くりこみ群法を用いることによって、ルテニウム酸化物で実現しているトリプレット超伝導状態の新たな発現機構を提唱することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
低次元電子系では、熱揺らぎや量子揺らぎが重要な役割を果たすことが知られているが、平均場近似ではそれらが無視されている。TPP[Fe(Pc)(CN)2]2の物性をさらに定量的に議論するためには、これらの揺らぎを取り込む必要がある。これを実行するための最も有効な手法の一つが汎関数くりこみ群法である。この手法を用いて揺らぎを取り込むとともに、電流電圧特性の記述など非平衡系への拡張を視野に入れた定式化を行う。さらに、これまでに開発した2次元汎関数繰り込み群法を銅酸化物超伝導体に適用し、最近注目されている擬ギャップ領域での電荷密度波状態の解析を行う。
|
Causes of Carryover |
研究分担者は新しい汎関数くりこみ群法(RG+cRPA法)を開発し、それを用いて酸化物などの2次元強相関電子系の超伝導状態や電荷密度波状態等の秩序状態の解析を行っている。このアプローチは大変有効なものであることは分かっているが、取り扱う連立微分方程式が膨大な数となる。したがって、精度良くこれらの式の数値処理を行うためには、高性能のワークステーションが必要である。今年度の予算では、しかしながら、上記の計算を実行するのに適切なワークステーションを購入できず、研究分担者が所属する研究機関のワークステーションを使用していた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、今年度の繰越金と次年度の予算を合わせて、研究分担者が計算処理能力が高く、メモリーを十分に搭載した高性能のワークステーションを購入する予定である。
|
Research Products
(17 results)