2013 Fiscal Year Research-status Report
磁場中熱伝導度による擬一次元有機超伝導体(DMET)2I3のギャップ構造の解明
Project/Area Number |
25400380
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
吉野 治一 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (60295681)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 擬一次元伝導体 / 有機超伝導体 / 超伝導発現機構 / 磁場中熱伝導度 / 希釈冷凍機 |
Research Abstract |
本研究の目的は,擬一次元有機超伝導体(DMET)2I3(超伝導転移温度 0.5 K)の超伝導発現機構を明らかにすることである.金属が超伝導状態になると,フェルミ面およびその近傍で超伝導ギャップが開く.超伝導ギャップの開き方(対称性)と超伝導の発現機構は密接に関連している.超伝導状態では電気抵抗はゼロになるが,電子が関与した熱伝導度は有限の値をとる.また,超伝導ギャップが異方的に開く場合は,磁場の向きと超伝導体の格子のなす角度が変化すると,超伝導ギャップの開き方に応じて,熱伝導度の磁場方位依存性が構造を持つことがわかっている.本研究では,この手法を利用することで,発見以来25年以上も超伝導発現機構が未解明である有機超伝導体(DMET)2I3の超伝導ギャップ対称性を3か年かけて決定する. 初年度のH25年度では,長さ0.5 mm程度と非常に小さくかつもろい(DMET)2I3の結晶に対して,4.2 Kから300 Kの範囲で熱伝導度を測定することができた.さらに,超伝導を発現しない(DMET)2AuI2という類似物質についても,熱伝導度を測定し比較を行った.いずれも4.2 K以上では,格子系の熱伝導度が支配的であることを示唆する結果が得られた.このこと自体が新しい実験事実であるが,それに加えて4.2 K以上での測定法が確立したことは,2年目のH26年度で目標としている,0.1 Kまでの超低温・磁場中熱伝導度測定のための基礎技術が得られたことを意味しており,研究を新しい段階に進める準備が整ったと考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
H25年度には,擬一次元有機超伝導体(DMET)2I3の熱伝導度の0.1 Kから300 Kの範囲における測定が終了している予定であった.このために,以下の目標を立てた. 1) 温度計の構成 2) 試料ホルダーの作成 3) 0.1 K-300 Kにおける測定 このうち,2)までは達成することができたが,3)については4.2 K以上の測定にとどまり,希釈冷凍機を使用した測定を行うことができなかった.主な理由は,(DMET)2I3の結晶が予想以上にもろく,4.2 Kまでの測定の再現性が低かったためである.また,所属大学の新学舎建設にともなう移転作業のために,2か月間実験を中止せざるを得なかったことも影響している.
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Strategy for Future Research Activity |
(DMET)2I3の測定に時間を要したが,測定ホルダーの改良を行い,よりストレスの少ない端子付法を見いだすことができた.依然として100 K程度の中間温度領域では熱伝導度の絶対値,温度依存性共に再現性が高くないが,4.2 Kまでの測定は可能になった. 本研究の目的は,磁場の向きを変化させた場合の熱伝導度の変化を測定することで,超伝導の発現機構を明らかにするものである.したがって,中間温度領域で多少再現性が低くとも,希釈冷凍機を用いた0.1 Kでの測定には大きな影響はないと期待している.そこで,H26年度には,上記の試料ホルダーを希釈冷凍機に設置して(DMET)2I3の熱伝導度を測定する. また,比較のために類似構造の(DMET)2AuI2についても同様の測定を行う.後者は常圧において16 Kでスピン密度波転移を起こして,低温で半導体になる物質である.したがって,超伝導ギャップの対称性に起因した,磁場中熱伝導度の磁場方位依存性は生じないと考えられるので,この測定によって(DMET)2I3の結果が超伝導によるものであることの状況証拠となると期待している.
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