2013 Fiscal Year Research-status Report
複雑系の動的相関構造:ランダム行列理論とヒルベルト変換の融合
Project/Area Number |
25400393
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
家富 洋 新潟大学, 自然科学系, 教授 (20168090)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
相馬 亘 日本大学, 理工学部, 准教授 (50395117)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 多変量時系列 / ヒルベルト変換 / ランダム行列理論 / 相関行列 / ネットワーク / 位相同期 / 主成分分析 |
Research Abstract |
主成分分析法を使って多変量時系列データの相関構造を解明する際に,ランダム行列理論(RMT)は統計的に有意味な主成分を選択するための理論的判定規準を与える(相関行列の固有値問題を解き,RMTの予測する最大固有値より大きい固有値が得られれば,それは真の相関の現れ)。主成分分析にRMTを組み込んだそのような多変量解析手法は,株式市場をはじめとして様々な複雑系の相関構造の解明に成功を修めてきた。 しかし,これまでの方法では,相関行列を計算する際に同時刻の相関をとるため,リード・ラグのある変量間の相関構造を抽出することは難しい。本研究では,静的相関の検出に対してのみ有効である従来の主成分分析法を基礎に,動的相関を効果的に検出できる新しい解析手法(複素主成分分析)を発展させる。 今年度は,本研究の方法論的な面での中核となるヒルベルト変換とRMTとを組み合わせた複素主成分分析法の基礎を確立した。時系列データの複素数化(元のデータが実部,そのヒルベルト変換が虚部)によって得られる複素相関行列は,時系列間の動的相関情報を含むが,新奇なランダム行列であり,従来のRMTを一般化する必要がある。複素ランダム相関行列の固有値分布や固有ベクトル成分分布を理論的に調べ,複素主成分判定規準を解析的に求めた。また,ノイズが除去された相関行列から構築される相関ネットワークの解析手法を発展させた。具体的には位相の同期するノード群をコミュニティとして抽出する。 さらに新手法を株価日次データ(東京市場,S&P500)の解析へ応用し,フラストレーション構造をはじめとして市場全体の動きに相対的な株価変動の動的相関特性を明らかにした。また,我が国の財別鉱工業指数(生産,出荷,在庫)を調べることにより,2つの統計的に意味のある景気変動モードが存在することを見いだし,それらのモード間で同期現象が発生している可能性を指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ほぼ当初の計画どおりに研究を進めている。ランダム行列理論の新しい展開や相関ネットワークにおける同期ノード・コミュニティの抽出など,手法の開発面では大いに先行している。しかし,今年度の計画として新手法を気象現象におけるテレコネクションの解明にも応用する予定であったが,気象データの解析面では遅れている。以上を勘案し,達成度について標記の自己評価を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度,研究を進めて行く過程で次のような課題や新しい研究対象が現れた。以下の項目についても研究計画に組み入れて,本研究を推進していく。 1)複素相関行列からの情報抽出:複素相関行列は,単に変量間の相関の大きさばかりではなく,変量同士のリード・ラグ関係を位相情報として含む。すでに位相同期ノード群をコミュニティとして抽出するネットワーク的手法を確立したが,すべての有用な位相情報を抽出できているとは言い難い。さらなる手法の発展を図る。 2)非定常性への対応:必ずしも対象とする複雑系が定常性をもっているとは限らない。株式市場についての予備的解析は,1年スケールでも相関構造が変化する可能性を示す。非定常系に適用可能な手法の開発を試みる。 3)高次相関への研究展開:株式市場におけるフラストレーション構造は本質的に多体効果であり,その理解を深化させるためには,3体以上の高次相関を明らかにする必要がある。 4)物価データへの応用:企業物価指数,消費者物価指数,輸入物価指数などの物価データは,月次であるものの30年以上にわたって収集されている。多数の品目の物価変動がどのように相互連関しているかは,物理学的に集団運動として興味があり,本研究にとって格好のターゲットである。もちろん物価変動の波及の問題が経済学の最重要課題の1つであることは言うまでもない。 5)株式市場の世界規模解析:全世界の株価日次データを収集し,世界レベルで銘柄間の相関行列ならびに時間相関に対する相関行列を作成中である。時間相関行列をランダム行列理論を用いて解析した場合,その有意な成分を解釈するには,ニュースデータが必要であり,現在,そのデータの収集も行っている。地震データに関しては,まだ着手できていないため,平成26年度は地震相関行列についても研究を始める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1)海外出張を2回計画していたが,勤務先の移動などの時間的な都合もあり,1回しか行わなかったため。 2)購入を計画していたデータ解析用パーソナル・コンピュータの発売が遅れたため。 1)海外出張費として使用する。 2)当初の計画どおりのデータ解析用パーソナル・コンピュータを購入する。
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Research Products
(35 results)