2014 Fiscal Year Research-status Report
複雑系の動的相関構造:ランダム行列理論とヒルベルト変換の融合
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25400393
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
家富 洋 新潟大学, 自然科学系, 教授 (20168090)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
相馬 亘 日本大学, 理工学部, 准教授 (50395117)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 多変量時系列 / ヒルベルト変換 / ランダム行列理論 / 動的相関構造 / ネットワーク / 位相同期 / 主成分分析 / コミュニティ |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度の株式市場データ(TSE, S&P500)の解析を継続し,本研究で開発した複素主成分分析法の有効性の検証を進めたところ,新しい株価間の動的相関構造が次々に明らかにされた。例えば,1)従来の主成分分析では独立した2つの固有モードと抽出されるものが,複素主成分分析で得られる1つの複素固有モードの長軸および短軸方向の射影に過ぎないこと,2)いくつかの固有モード間に位相同期が存在すること,3)フラストレーション構造(互いに反相関関係にある3極構造)が動的レベルで実現していること,などである。 NYSEに上場している株式とTSEに上場している株式から時間相関行列を計算し,固有値と固有ベクトルを求め,ランダム行列理論の理論式と比較することによって,有意な相関構造を抽出した。そして,有意な相関構造の中でも,第4番目の固有ベクトルに特徴があることを明らかにした。その理由を見つけるために,2009年から2011年までのニュース記事を形態素解析して名詞を抽出し,第4番目の固有ベクトルが示す期間は,ユーロ危機と関係していることを明らかにした。 我が国の中分類物価指数データ(1985年1月ー2011年11月)に対して複素主成分分析を行い,統計的に有意な固有モード3個を抽出した。それらは物価間の動的相関構造を特徴づけ,それぞれ異なる経済ショックと強く結合する。消費税導入・増,世界金融危機に強く反応する第1モードでは,輸入物価が先行し,企業物価,消費者物価が集団的に続く。第2モードは円ドル為替レートに鋭敏であり,輸入物価に原材料関連の企業物価が同伴する構造をもつ。バブル期や世界金融危機の時期に強く現れる第3モードでは,エネルギー関連品目が強い相関をもつ。 加えて,世界48カ国の通貨と株式市場の日次データ(1999年から2012年)を複素主成分分析し,国際金融市場の同期コミュニティを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で開発した複素主成分分析法を様々な多変量時系列データへ応用中であり,新手法の有効性を例示的に積み重ねている。一方で,研究の進展とともに手法開発の面でいくつかの新しい課題(「今後の研究の推進方策」を参照)が登場してきた。これは本研究にとっての隘路ではなく,むしろ新手法の可能性の広さの現れである。以上を勘案し,達成度について標記の自己評価を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
研究を進めて行く過程で,次のような課題(昨年度からの持ち越しを含む)が重要であることがわかり,それらの点に十分留意しながら本研究を推進していく: 1)複素相関行列を隣接行列とみなすと,株価相関ネットワークが構築される。しかし,このネットワークは通常のものとは異なり,リンクの重みが複素数であり(重みの大きさは株価間の相関の強さ,重みの位相は変量同士のリード・ラグ関係を示す),ネットワーク科学に対しても新しい問題を提供する。株式市場の動的相関構造を明らかにするため,そのような複素数の重み付きネットワークの構造を解析する新しい方法を開発する。 2)株価間のフラストレーション構造の起源を明らかにするため,三体および高次の動的相関構造を詳しく調べる。また,市場のマクロの運動である市場モードと株価間のミクロな相関を代表するフラストレーション構造との関係を動的に明らかにする。 3)NYSEに上場している株式から作られる相関行列の成分分布には2つのピークが存在するが,S&P500を構成する株式から作られる相関行列の成分分布にはピークが1つだけ存在することを明らかにしている。そこで,これらの違いを生み出している原因を解明するために,ヒルベルト変換の方法を用い,位相構造の違いについて研究する。 4)時系列の時間ステップ数に比べて時系列種数の方が格段に大きい,いわゆる高次元データに対して適用可能な複素主成分分析法を開発する。この問題は,近年のデータ収集の大規模化に伴い,ますます重要となっている。具体的な課題は,多変量時系列データに対する時間方向と種類方向での2重標準化,時間方向の複素主成分分析に呼応したランダム行列理論の拡張などである。 5)本研究の最終年度であることを考慮し,解析対象としては,経済データ(株価,物価,鉱工業指数,GDP)に注力することとする。
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Causes of Carryover |
米国物理学会での研究発表を計画していたが,年度末で想像以上に多忙であり,参加できなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
7月にマケドニアで開催される国際会議"Big Data in Econimics, Science and Technology"への参加旅費として使用する計画である。
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