2014 Fiscal Year Research-status Report
エネルギースケール変形のテンソルネットワーク形式による繰り込み群解析
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25400401
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
西野 友年 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00241563)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | エネルギースケール / テンソルネットワーク / 繰込み群 / 計算物理学 / エンタングルメント / 双曲変形 / 指数変形 / 一様性 |
Outline of Annual Research Achievements |
エネルギースケールが空間変形(あるいは空間変調)された量子系の低エネルギー状態や、同様に変形を受けた古典統計模型の熱平衡状態について、ハミルトニアンに対する変形が、観測される物理量にどのように反映されるかを調べることが、本研究の目標の一つである。 本年度はまず、量子系については、境界へ向けてスムーズにエネルギースケールが減少して行くケイリー樹上での、自由フェルミ系の基底状態を解析した。ケイリー樹は、その幾何学的な構造から、境界に存在するサイト数の全系に対する割合が、系の大きさによらず一定である特徴を持つ。従って、通常は境界効果が非常に強く現れる。ギャップを持たない自由フェルミ系においては、系(つまり樹)の中心付近においても、粒子密度の期待値はベーテ格子を用いて計した熱力学極限から大きく揺らいでいてる。このような状況へと、スムーズなエネルギースケール変形を導入すると、境界効果が強く抑制され、ベーテ格子による熱力学極限が良い精度で再現されることが判明した。 古典統計系については、弱く双曲的に変形した「ほぼ規則的な」格子を系統的に生成する手法を、A.Gendiar と共同して開発し、その上に乗ったイジング模型の熱力学について、有限サイズスケーリングを用いた系統的な解析を行った。その結果、双曲的な空間構造の下では、相転移は常に平均場的になることと、有限サイズスケーリングに対する振る舞いにはイジング的なものから、平均場的なものへの「乗り換え」が起きることが判明した。この乗り換えは、系の相関長が双曲面の特徴的な長さである曲率半径と等しくなる付近で起き、それより長いスケールの空間揺らぎは、例え相転移点直上であっても抑えられることが判明した。 以上の研究結果を踏まえて、双曲的な格子上での自由フェルミ模型や、多面体模型について、実空間繰り込み群手法を用いた解析を継続している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ケイリー樹という、指数的に広大な境界を持つ系に対して、スムーズに減少するエネルギースケール変形が充分な境界効果の抑制を行った事実は、粒子密度に対する変形の有効性を定量的に示すものであった。計算においては、ケイリー樹の再帰的な構造が簡便な定量解析を可能とした。但し、境界付近の多くの固有状態が局在しているという、模型に固有の状況もあり、解析結果が一般の双曲格子へと拡張できるものか、今後の解析で確認して行く必要がある。 弱く双曲的に変形した古典系では、昨年度の内に熱力学関数の数値計算は終えていたが、どれくらい空間的に曲がっているか、格子の幾何学的な性質を定量評価する方法がわかっていなかった。そこで、双曲的な変形を与える幾何学的な漸化構造をよく検討し、系の直径と、系に含まれる格子の数の関係を解析的に求めることにした。両者の間をつなぐ漸化式を立ててみると、それは初等的に解けるものであり、系のサイズと比較することによって「平均的な」負曲率と、それに付随する曲率半径を求めることができた。以上のように本年度は、従来からの数値繰り込み群解析に加えて、系の幾何学的な構造が可能とする解析的な考察を行い、数値解析で求められた諸期待値への定量的な評価につなげて来た。 昨年度より進めている多面体模型の熱力学解析については、おおよその相図を確定することができた。古典ハイゼンベルグ模型の離散版である切頭4面体模型では、低温の強磁性層から高温の非磁性層まで、合計で4つの相が見出され、それらは特徴的な1次・2次相転移、そしてKT転移で区切られている事実が、これまでに解析されている。2次相転移の部分について、そのユニヴァーサリティを解明する目的で、精密なデータ取得を行っている所である。
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Strategy for Future Research Activity |
量子系については、まずケイリー樹で確認されたスムーズな境界条件の有効性を、双曲格子上で確認することが、直近の課題である。双曲格子の漸化的な幾何学構造は、系のグリーン関数の計算にも有用であると類推されるので、解析的にこれを求めることに取り組んで行く予定である。 エネルギースケール変形について、ごく最近、興味深い事実が判明している。それは、指数変形を受けた自由フェルミ系の基底状態が、実は一様な自由フェルミ系の、良い基底変分関数となっているのである。両者の1粒子波動関数の形は全く異なるので、この主張は一見すると矛盾しているように見えるが、S.R.White らの最近の解析により、エンタングルメントの観点からは両者に矛盾がないことが示された。この結果は、自然に次の問いかけを生む。すなわち、双曲的に、あるいは正弦的に変形された系の波動関数と、一様系の関係である。この新たな視点に基づいて、量子系の繰込み群解析に取り組んで行きたい。 古典系では、6状態クロック模型のエンタングルメント・エントロピーに着目している。この模型はKT転移を示し、臨界領域で同エントロピーは(熱力学極限において)発散している。この模型を、角転送行列繰込み群で取り扱うと、自由度の制限に対応した有限の値が、エンタングルメント・エントロピーとして得られる。実は意外なことに、高温側の相転移点付近で、この値にピークが検出されるのである。この原因は、まだ判明していない。そこで、弱く双曲的に変形された格子上に6状態クロック模型を乗せて、その熱力学を解析することを検討している。曲率半径という、長さへの制限の下でも、同じようにピークが検出できるだろうか?仮に存在しているとすれば、その理由は何であろうか、解析を継続したい。
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Causes of Carryover |
2016年度はブラジルで研究会及び打ち合わせが予定されており、旅費を確保する目的で2015年度の支出を抑え、計算機の購入等は行わなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度は、上記のブラジル出張に加えて、研究協力者の A. Gendiar との研究打ち合わせに旅費を充て、加えて前年度に購入を見送った計算機の購入を行う予定である。
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