2014 Fiscal Year Research-status Report
ハミルトン力学系における動的境界と量子効果に関する研究
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25400405
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
首藤 啓 首都大学東京, 理工学研究科, 教授 (60206258)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 量子カオス / ハミルトン系 / 動的トンネル効果 / 混合位相空間 / 複素半古典論 / 遅い緩和過程 / 回折 / 複素古典力学 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は,混同位相空間における動的障壁についての以下の点を明らかにした.まず, (1) 安定構造とカオス領域とが位相空間上に混在する,区分線型写像を詳細に調べた.その結果,安定構造が無限個存在することに対する厳密な証明に成功すると共に,安定構造が階層構造をもち自己相似的に位相空間中に散在するにも関わらず,そのことが動力学の遅い緩和を促すことがないことを数値的に実証した.この事実は,Ott-Meissによって提唱されたマルコフ木モデルの前提が成り立っていないことを意味し,長年論争の続いた,混同位相空間中の古典動力学に対する新しい知見を与えることになった.安定構造が無限個存在することは,多くの人が予想するところであるが,測度をもつ安定構造が無限個存在することが厳密に証明されたのは我々の知る限りはじめてである.また, (2) 混合位相空間をもつ2次元写像系の量子トンネル効果の研究を前年度に引き続き進めた.その結果,系の可積分性の違いがトンネル効果にいかに影響を及ぼすか,という,多次元トンネル効果の最も基本的な問いにさらに明確な答えを得ることに成功した.さらに,非可積分系におけるトンネル効果をエネルギー領域から考えたとき,広い意味での回折効果が,トンネル効果に代わって本質的な役割を果たしている可能性がさらに強くなった.並行して,(3) 完全可積分系,とくに,多項式標準ハミルトン系のトンネル効果を,複素半古典論に依拠して調べた.26年度は,最も単純な標準ハミルトン系の厳密解を求め,それを用いて古典解の複素特異点とリーマン面の構造を詳しく調べた.その結果,完全可積分系におけるトンネル効果を記述する複素古典軌道(いわゆるインスタントン軌道に代わるもの)として現れ得るバリエーションを厳密に明かにすることができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本課題の最大のテーマである,非可積分系におけるトンネル効果については,平成25年度に引き続きさらなる進展があり,研究の進捗状況は想定を上回る.それらをまとめた速報論文は既に出版され,さらに,詳報も受理されており,結果の発信の点でも万全の状況にある.また,古典系の研究に関しても大きな進展があり,特に,上記研究実績の概要に記したように,位相空間内における安定構造が無限個存在することの厳密証明は著しい成果のひとつと考えている.また,完全WKB解析を基づく解析に関しても,量子エノン写像に対する分岐理論をまとめた論文は現在投稿中の状況にあり,多準位の非断熱遷移に関する予備的な結果は国際会議の会議録として現在出版予定にあり,こちらも順調に進んでいる.
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Strategy for Future Research Activity |
平成25・26年度に明かになった,非可積分系におけるトンネル効果の異常増大機構がどこまで一般的なものであり得るか,とくに,これまでの解析で用いてきた周期外力系を越えて,より一般的な多次元ポテンシャル系においても同様の機構が働いているかを調べることは極めて重要な課題と言える.また,より根本的な問題として,前年度,既に可能性が指摘された「半古典記述の破綻問題」に傾注する必要がある.これは,研究開始当初全く予想していなかった,本研究遂行によって明らかされた重要な観点であるが,今のところまだ,具体的な解析手段や帰着すべき標準型が見えない状況にあり,来年度以降,だ多くの努力が必要である.
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたのは,平成25年度前半から体調を崩したため,予定していた海外出張(国際会議出席,講演を予定)ならびに国内出張(研究会出席,講演を予定)を取りやめたことが大きい.平成26年度についても体調不良が続き,当初予定額を消化することができなかった.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用計画としては,当初計画の計算サーバを購入することと,研究成果を,国際会議(招聘を受けたウズベキスタン,および,韓国における)において発表すること,さらに,研究討論,情報交換(米国ワシントン大学の混合位相空間における波束の時間発展の専門家およびその共同研究者のための)に当てることを計画している.
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Research Products
(23 results)