2013 Fiscal Year Research-status Report
重い負電荷粒子スタウを含む新奇な原子・分子系の開拓
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25400416
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
木野 康志 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00272005)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | エキゾチック原子分子 / 少数多体系 / 原子衝突 / ビッグバン元素合成 / 超対称性粒子 / 陽電子 |
Research Abstract |
超対称性理論において、タウ粒子の超対称性パートナーであるスタウ粒子は負電荷をもち、電子よりも遥かに重く、ビッグバン直後の元素合成の時間に比べ長い寿命をもつとされる。この様な長寿命かつ重い負電荷粒子(以降X粒子とする)が存在すると、ビッグバン直後の軽元素合成に影響を与えたと考えられる。従来のビッグバン元素合成モデルでは、古い天体での7Liの元素存在度の観測値を説明できないという大きな問題(7Li問題)があったが、7BeがX粒子とX粒子原子(7BeX)を形成すると、この原子と1Hとの反応の際8B(=7Be+1H)のX粒子原子(8BX)が一時的に形成され、この原子が崩壊する事により7Beの存在量が減ることが我々の計算から明らかになっていた。7Beは電子捕獲により7Liに壊変する。今回、7Beの7BeXの生成過程として、電子1個をもつ7Be3+の水素要原子がX粒子と衝突して電子とX粒子の交換反応の計算を行い、最新の原子核反応による元素合成シナリオ計算からビッグバン元素合成に与える影響を検討した。 今回考える新しい過程が実現する事を検証するためには以下のそれぞれの素過程について定量的に議論する必要があった。元素合成で生成した7Beが電子と結合した7Be3+が周囲と熱平衡にあるときの存在量、周囲の陽電子との衝突で7Be3+の軌道電子が対消滅し7Be3+が失われる過程、陽電子と原子やイオンとの散乱や結合過程、光イオン化による7Be3+の分解過程、軌道電子とX粒子の交換反応の断面積、高励起状態に生成した7BeX*の脱励起過程、7BeX*が周囲の電子や陽電子との衝突で分解する過程、電子と7BeX*の衝突により再交換反応を起こす過程などについて理論計算を行った。 今回の結果から、7Be3+とX粒子の交換反応は、7Beの存在量を減らし7Li問題解決に対して有効である事を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ビッグバン元素合成における7Li問題に対して、電子捕獲により7Liに壊変する7Beの存在量を減らすため、長寿命で電子よりも遥かに重く負電荷をもつスタウ粒子(超対称性理論で存在を予言されているが未発見のため、以降X粒子とよぶ)と7Be原子核がつくるX粒子原子7BeXと陽子の原子衝突反応について理論計算を行うことを目標としていた。この原子衝突反応では、衝突エネルギーにより7Be+p+Xの三体共鳴状態を形成する。この共鳴状態では、7Beとpが核力により結合し8Bとなり、X粒子は8Bの2p軌道にある。この共鳴状態の寿命の間に8BX原子の2pから1sへの電磁遷移が起これば、エネルギー保存則により8Bは、7Beとpには分解できなくなる。8Bは1 s以内にβ壊変し8Beとなり、8Beは瞬時に2つのα粒子に壊変する。X粒子の長寿命はこれらの壊変時間より十分長い。本研究では、スタウ原子衝突における共鳴反応や脱励起反応について理論計算を行った。当初の計画では7BeXの生成に関してはこの2種類の粒子についての熱平衡のみを仮定していた。日下部博士との共同研究により、7BeXの生成過程に初期状態として電子1個を含む水素要原子7Be3+イオンを導入して、ビッグバン元素合成時に7Be3+の存在、電子とX粒子の交換反応により7BeXが生成する事を明らかにし、上記の3体共鳴反応を経て7Beの存在量を減少させることを明らかにした。さらに最新の原子核反応断面積に基づくビッグバン元素合成の計算を行い、本研究がこの問題に関して有効な解決策となる事を示した。
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Strategy for Future Research Activity |
ビッグバン元素合成における7Li問題とともに、6Li問題もある。これまで宇宙初期の同位体の存在量に対してビッグバン元素合成モデルが観測値を再現し、ビッグバン宇宙論の大きな証拠の一つとされていた。しかし、宇宙初期の星でのリチウムの同位体存在量の観測値は従来のビッグバン元素合成モデルの値と大きく異なり、これを改善するためにはビッグバン宇宙論には大きな修正が必要となる。このリチウムの同位体存在量は、モデルによる理論値は観測値に対し6Liについて1000倍過小評価し、7Liについて3倍過大評価している。スタウ粒子の様な長寿命かつ重い負電荷粒子(以降X粒子とする)が原子核とクーロン力により結合して形成されるスタウ原子と原子核との衝突により引き起こされる原子核反応について、ビッグバン元素合成モデルの原子核反応ネットワークにある核反応についてそれぞれX粒子の関与について検討する。(X粒子は電子と比べ遥かに重く、中程度の原子核に匹敵する質量をもつ。このためスタウ原子の軌道半径は原子核のサイズと同程度となり、スタウ粒子がつくるスタウ分子の大きさも原子核と同程度となるため、X粒子分子内で原子核反応が引き起こされる。)また、これまで考慮されてこなかった電子や陽電子の影響についても考慮する。特に陽電子は初期宇宙空間に存在する高エネルギーガンマ線と原子核との衝突における対生成反応で生成される。正電荷をもつ陽電子とスタウ粒子が結合したX粒子陽電子原子も考えられ、初期状態としてのX粒子原子生成量について詳細に検討を行い、X粒子を含むビッグバン元素合成モデルを検証する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額は、当初予定していたタウ原子の束縛状態と共鳴状態の数値計算を行うための汎用性の高い計算コード開発のための大型計算機センターの演算使用料が計算機センターの新機種導入の遅れと、節電対策のための夏期利用期間の制限により計算機が使用出来なかったために生じた分である。 今年度も夏期の利用制限はあるが、予定していた大型計算機の利用CPU数を増やす他に、占有使用出来る計算機を使用できるようにする。次年度使用額は、この利用CPU数の増加と占有計算機の利用料金に充てる予定である。
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Research Products
(4 results)