2014 Fiscal Year Research-status Report
重い負電荷粒子スタウを含む新奇な原子・分子系の開拓
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25400416
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
木野 康志 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00272005)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | エキゾチック原子分子 / 原子衝突 / 少数多体系 / ビッグバン元素合成 / 超対称性粒子 / 陽電子 |
Outline of Annual Research Achievements |
超対称性粒子は、LHC での発見が期待されている新粒子である。超対称性理論のモデルによると、最も軽い超対称性粒子がグラビティーノ (グラビトンの超対称性パートナー) で、次に軽い超対称性粒子はスタウ(X, 以降X粒子とする) とされている。ビッグバン直後に多量に生成し、不安定粒子の中で桁違いに長い寿命(1,000 秒以上)をもつ粒子である事が我々の理論計算により分かってきた。 X粒子はビッグバンで生成し、長寿命のためその直後のビッグバン元素合成まで存在し、元素合成に影響を与えた可能性がある。これまで我々は、このX粒子がエキゾチック原子を形成し、原子衝突を起こすことにより、6Liと7Liの生成量を大きく変化させ、ビッグバン元素合成の痕跡を残す古い天体での6Liと 7Liの同位体存在度の観測値と、ビッグバン元素合成モデルからの同位体存在度の計算値間の不一致 (リチウム問題)の解決になる事を示してきた。これは、X粒子がエキゾチック原子・分子系を形成すると、陽子の100倍以上の質量を持つため、非常に重い電子として振舞い原子の軌道半径は原子核のサイズと近くなり、原子衝突の際に2つの原子核をX粒子が強く引きつけ、原子核反応を誘発するからである。今回、様々なX粒子を含む原子衝突を詳細に検討し、X粒子原子衝突がこのリチウム問題を解決し、さらには超対称性理論の中のパラメータを決定できる事を示した。 X粒子は現在発見されていないが、X粒子が作るエキゾチック原子・分子は理論計算では、質量をスケールすれば同じ枠組みで別のエキゾチック原子・分子系の計算ができる。また逆に、その結果からX粒子を含む系の性質を議論する事ができる。重い電子の代わりに軽い原子核として陽電子が形成するエキゾチック原子・分子に本研究で開発した手法を適用した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ビッグバン宇宙論が直面する最も重大な問題の一つであるリチウム問題(ビッグバン元素合成でのリチウム同位体の生成量が観測値と合わない問題)に対して、重い負電荷粒子スタウ(未発見であり、スタウ粒子以外の可能性もあるため、以降X粒子とする)を含む新奇な原子・分子反応により、これを解く事ができる事を示し、未知の超対称性理論内で登場するパラメータに対して制限を与える事ができた。この成果は「Revised Big Bang Nucleosynthesis with long-lived negatively charged massive particles: impact of new 6Li limits, primordial 9Be nucleosynthesis, and updated recombination rates」として、The Astrophysical Journal Supplement Series (impact factor 14.14) に掲載された。 また副産物として、本研究で開発した計算コードを陽電子原子の系に適用したところ、原子・分子系での相対論効果は原子番号の小さな元素ではあまり重要でなかったが、陽電子を含む系では小さい原子番号の元素でも重要な役割を果たす事が見つかった。陽電子は正の電荷をもつ軽い原子核であり、原子分子内での振る舞いは、重い電子であるスタウと対比することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
26年度に計算した原子衝突は、原子波動関数とエネルギーに原子核の有限サイズ効果は取り入れたが、核間の相互作用はクーロン相互作用のみであった。実効的な核間相互作用を導入し、その効果を調べる。ビッグバン元素合成で登場する軽い原子核の構造や反応は、クラスター模型により精度よく記述される場合が多く(例えば6Li = 4He + d 、7Li = 4He + t 、8Be = 4He+ 4He等)、例えば、4HeX + d → 6Li + Xの様な組替え反応によって記述する。またクラスター模型で表現できない複雑な内部構造を持つ原子核は、光学模型を導入し、複素ポテンシャルによる入射チャネルの減衰により原子核反応を表現する。核間のポテンシャルは核反応の位相のズレ等の散乱データを再現する様に決める。原子核の荷電分布も電子散乱の実験データを再現するように決める。メインの反応はクーロン相互作用による原子衝突であり、原子核反応は実効的なポテンシャルで表現する事が可能である。 また、本研究で新たに見出された陽電子原子の相対論効果発現の機構を明らかにし、相対論効果がより大きく現れる系や、相対論効果が構造に決定的な役割を果たす系を検討する。
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Causes of Carryover |
年度末の学会出張が学務のため急遽取りやめになったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
7月の国際会議参加費用の一部に充填する。
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Research Products
(12 results)
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[Presentation] Psの基礎2014
Author(s)
木野康志
Organizer
第7回陽電子科学研究交流会
Place of Presentation
千葉県南房総市
Year and Date
2014-09-01 – 2014-09-03
Invited