2014 Fiscal Year Research-status Report
過冷却液体の結晶化と温度変調非線形応答の理論的研究
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25400429
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Research Institution | Tokyo Denki University |
Principal Investigator |
小田垣 孝 東京電機大学, 理工学部, 教授 (90214147)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 過冷却液体 / 結晶化時間 / 初到達時間 / TTT図 / 自由エンルギーランドスケープ / レナード・ジョーンズ・ガウス系 / ガラス転移 / 密度汎関数理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、自由エネルギーランドスケープ(FEL)を用いて,液体、過冷却液体、ガラス、結晶の、熱力学性質と動的性質を統一的に理解する理論的枠組みを完成させることにある。(1)過冷却液体の結晶化、(2)温度変調応答、(3)非平衡系における相転移理論への展開について、FEL理論に基づく解析、分子動力学/モンテカルロシミュレーション、温度変調誘電率の測定、密度汎関数理論による研究を通して、次の成果を得た。 (1)過冷却液体の結晶化過程の研究:1)FEL理論に基づく解析: 過冷却液体の結晶化について、より現実に近いFEL構造に基づいて、結晶化時間の温度依存性を求め、高温過程では熱力学効果、低温過程では動力学的効果が支配的であり、実験と同じ傾向を持つTTT図が得られることを示した。また、TTT図からFELの構造に関する情報が得られることを明らかにした。結果を、アメリカ物理学会および日本物理学会で発表した。2)分子動力学シミュレーションによる研究:液相、ガラス状態、結晶相を実現できるレナード・ジューンズ・ガウスポテンシャル(LJG)系の過冷却液体の結晶化時間の温度依存性を求めた。特に結晶化時間は挿入した核の大きさに依存し,臨界核の大きさが融点で発散するように振る舞うことを示した。 (2)温度変調誘電率の測定:共同研究者である京都工芸繊維大学の猿山教授の温度変調誘電緩和の測定結果の理論的解析を行い、これまでに得ていた理論曲線と定性的に一致すること明らかにした。また、温度変調応答に関する論文を執筆した。 (3)非平衡系における相転移理論:1)九州大学の協同研究者とともに、密度斑関数理論を用いてLJG系の相図を決定し、成果を論文として発表した。2)放電現象が1次転移として理解できることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、液体、過冷却液体、ガラス、結晶の間の転移現象を統一的に理解する自由エネルギーランドスケープ(FEL)理論を構築することである。その目的に向かって、(1)FELを直接観測する手段としての温度変調スペクトロスコピー法の理論の完成、(2)過冷却液体の結晶化過程を理解するFEL理論を確立すること、3)分子動力学シミュレーションによる結晶化の研究、(4)非平衡系の転移現象にテーマを分けて、注意深く計画された手準にしたがって研究を進めている。 (1)に関しては、温度変調応答が線形応答として解析できることを示し、また実験結果がこれまでの理論と定性的に一致することを明らかにした。(2)理論的取組においては、結晶化時間を初到達時間として求める理論的枠組みを完成させ、高温領域及び低温領域のそれぞれの振る舞いからFEL構造の情報が求まることを明らかにした。(3)分子動力学シミュレーションを用いた研究では、過冷却液体の結晶化過程における臨界結晶核の存在を明らかにし、その温度依存性を、精度は悪いが、求めることができた。また、ベトナムを訪問し、共同研究者との議論を通して、今後の課題を明らかにした。(4)非平衡系一般への展開においては、密度汎関数理論における解析が少なくとも平衡系に関する挿図の決定において有効であることを示した。また、過冷却状態と同様の非平衡系における転移現象の一つである雷などの放電現象をモンテカルロシミュレーション及び平均ば理論を用いて研究し、1次転移が見られることを示した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで、当初の計画通りほぼ順調に経過しており、これまでの研究を継続・発展させる。過冷却液体の結晶化については、構築した現象論をより精密な理論で基礎づけること、また結晶核の導入によって結晶化が如何に促進されるかを理解する方法を開発する。 (1)過冷却液体の結晶化過程を理解するFEL理論: オストワルドの核生成理論を取り込んだFEL構造を用いて、過冷却液体のTTT図のより正確な図を求める。特に、融点近傍における結晶化時間の増加について理論を用いた説明を試みる。(2)分子動力学シミュレーション:より大きな系でのシミュレーションを行い、結晶臨界核の大きさの温度依存性を精度よく求める。2次元系のシミュレーションについては、京都工芸繊維大学の水口朋子助教と共同で研究を進める。また、3次元LJG系の結晶化シミュレーションについてはホーチミン市立大学のHoang教授との共同研究として行い、初期条件として導入する結晶核の大きさの関数として結晶化時間を求め、さらにその過程におけるFELの解析を行う。(3)温度変調誘電緩和の理論的計算を継続して行い、猿山教授が提唱する 緩和時間が緩和するという新しい描像の検証を行う。(4)過冷却液体の結晶化は非平衡系における転移現象であり、本研究で用いられている手法を用いて、放電現象を理解するための理論構築を行う。
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Causes of Carryover |
今年度は、4-5月に脊椎椎間板ヘルニヤを患い、入院治療を含めて2ヶ月ほどは、体調をセーブした活動であったこと、並びに教育改善推進室長としての役職に関わる仕事が忙しく、研究時間がやや少なくなり、かかる経費も減少した。また、大学から支給される研究費でまかなえる部分もあり、昨年度から持ち越した費用の一部を来年度へ持ち越すことにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
5月には、国際会議への出張があり、今後の国内の研究者、海外の研究者との共同研究や国際会議での発表を積極的に行うことにする。
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