2013 Fiscal Year Research-status Report
地球科学現象におけるエントロピー生成率の変動特性の研究
Project/Area Number |
25400465
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
小澤 久 広島大学, 総合科学研究科, 准教授 (30371743)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
下川 信也 独立行政法人防災科学技術研究所, 水・土砂防災研究ユニット, 主任研究員 (40360367)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | エントロピー生成 / 非平衡 / 非線形 / 惑星大気 |
Research Abstract |
本年度は,外界からのエネルギーや物質の供給により平衡から離れた状態を維持する非平衡系の統計的な性質を,理論及び数値モデルを使って研究した。特に,流体系内部での熱や運動量の移流や拡散によりエントロピー生成率がどの様に変化するかに注目して研究を行った。 研究の結果,線形的な拡散過程が支配的な流体系の場合,エントロピー生成率が時間と共に減少し,最終的な定常状態でエントロピー生成率が最小(MinEP)の状態に収束する。しかし,非線形的な移流項が線形的な拡散項よりも大きい場合,エントロピー生成率が時間と共に増加し,エントロピー生成率が最大(MaxEP)の状態が実現されうる事がわかった。これらの結果は,非平衡系の定常状態には2つの異なる状態があり,線形的な領域ではMinEPの状態が実現されるが,非線形的な領域ではMaxEPの状態が実現される可能性を示している。また,地球や他の惑星の大気中での乱流熱輸送に伴うエントロピー生成率を,数値モデルを用いて研究した。その結果,エントロピー生成率が最大(MaxEP)の状態に対応する熱輸送率や温度の分布が,地球と金星そしてタイタンで観測される大気の状態と非常に近いことがわかった。この結果は,MaxEPの状態が地球を含む惑星の大気の定常的な状態に実現されている可能性を示している。これらの成果の一部は,2013年7月にイタリアで開催された国際学会において招待講演の中で発表され注目を集めた(学会発表)。また,3編の学術論文を執筆し,学会の論文集とドイツSpringer社から出版された書籍の中の2つの章として発表した(発表論文及び図書)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究から,本研究の前半部分で計画した非平衡状態の流体系の理論的な解析を実行し,有意な結果を得ることができた。より一般的な非平衡系についてもエントロピー生成率の変動特性を調べ,得られた結果の妥当性を検討したが,矛盾する結果は得られていない。本研究の後半で計画した数値モデルを使った研究については,惑星大気のモデルを構築し大気中の乱流熱輸送に伴うエントロピー生成率を計算し,観測データと比較した結果,地球と金星そしてタイタンの大気の状態が,エントロピー生成率が最大の状態と非常に近いことが明らかになった。これらの結果は,イタリアで開かれた国際学会で発表された他,3編の論文として纏められ,学会の論文集と国際的に著名なSpringer社の本の中の2つの章として出版され注目を集めた。これらの事から,研究はほぼ順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度の研究を踏まえ,今後は非平衡状態の流体系の統計的な性質を,理論と数値モデルそして観測結果を使って研究していく。まず,流体系内部での熱や運動量の輸送に伴うエントロピー生成率の変動特性と外的な条件との関係を調べ,エントロピー生成率が時間と共に増加する為の条件を理論的に研究する。研究から得られた条件を実験データや力学的な安定性解析の結果と比較して,条件の妥当性を検討する。また,非平衡流体系に形成される対流構造の例として熱帯低気圧(台風)を取り上げ,その対流構造の発生と風速の時間変化の仕組みを熱力学的に研究する。熱帯低気圧の風速が時間的に変化して定常状態に達するまでの時間が,外的な非平衡度を表す海水面温度によってどう変化するかを調べる。得られた結果を観測結果と比較検討し,熱帯低気圧の特徴を定量的に調べる。海水面温度の変動に伴う熱帯低気圧の強度の変化についても研究を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究の遂行に必要な欧文の専門書を3月に注文したが,納入が年度内に間に合わなかった。この書籍は次年度の4月に納入された。 欧文書籍2冊,発注済み。
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Research Products
(4 results)