2014 Fiscal Year Research-status Report
地球科学現象におけるエントロピー生成率の変動特性の研究
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25400465
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
小澤 久 広島大学, 総合科学研究科, 准教授 (30371743)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
下川 信也 独立行政法人防災科学技術研究所, 水・土砂防災研究ユニット, 総括主任研究員 (40360367)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | エントロピー生成 / 非平衡 / 熱帯低気圧 / 乱流 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究実績は以下の通りである。
・流体の運動方程式とエネルギー方程式を用いて,エントロピー生成率の変動特性の時間変動解析を行った。その結果,流体の状態が力学的に安定で外からの擾乱が減衰する流体系の場合,エントロピー生成率が時間と共に減少して最小値に収束する。しかし,流体の状態が力学的に不安定で擾乱が発達する流体系の場合,エントロピー生成率が時間と共に増加する事が示された。 ・非平衡状態の流体系で対流運動が自発的に組織化される自然現象の例として,熱帯低気圧の発生と発達の過程を熱力学的に研究した。解析の結果,海面水温が300K 以上で半径が50km 以上の熱帯低気圧は,正のフィードバックを伴う運動エネルギーの増加により1~3日で急速に発達して定常状態に達すること,そして定常状態でのエネルギーの変換効率は,不可逆的な熱輸送に伴うエントロピー生成により,カルノーの最大効率と比べて約40% 小さいことがわかった。これらの結果は,太平洋で観測された台風の発生と頻度の統計分布や強度と海面水温の観測値とよく整合することが示された。一連の結果は,15頁の英文論文に纏められ,スウェーデンの国際学術誌Tellus Aに投稿受理され印刷となった(出版論文参照)。 ・乱流状態の流体の定常的な流れの状態を熱力学的な視点から考察した。特に,経験的に知られている流量と運動量の輸送率を,エントロピー生成率が最大になる条件から推定する方法の検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究から,非平衡状態の流体系におけるエントロピー生成率の変動特性が,境界条件の違いに応じた特徴的な性質を示すことがわかってきた。特に本年度は,非平衡状態で対流運動が自己組織化する自然現象の例として,熱帯低気圧の発生と発達の過程を熱力学的に研究した結果,熱帯低気圧の発達条件とその定常状態に関する新しい知見を得ることができた。研究から得られた理論的な結果は,太平洋上での長期の台風の観測データと整合することが明らかとなった。一連の結果は,研究会やセミナーで発表された他,結果の一部は英文論文に纏められ,SCIに集録されている著名な国際学術誌Tellus Aに投稿され,レビューアーから高く評価されて出版になり,現在多方面の研究者から注目を集めている。これらの事から,本年度は当初の計画以上に研究が進展したと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究を踏まえ,今後は以下のテーマを中心に研究を進める予定である。
・熱帯低気圧の経路と強度を推定する方法を検討する。それと合わせて過去の熱帯低気圧の経路と強度の観測データと理論的な推定を比較する事で,熱帯低気圧の経路についての統計的性質を調べる。また,海面水温の変化に対する強度の変化についても検討を行う。 ・乱流状態の流体の流量と運動量輸送率を熱力学的に研究する。特に,エントロピー生成率が最大になる条件から推定される流量と実験的な流量データとの比較検討を行う。 ・接地境界層での運動量と熱の輸送率を理論的に研究する。特に,運動量輸送率と表面形態との対応関係を調べ,乱流境界層中の運動量輸送率への理論的なアプローチの可能性を検討する。
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Research Products
(1 results)