2015 Fiscal Year Research-status Report
地球科学現象におけるエントロピー生成率の変動特性の研究
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25400465
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
小澤 久 広島大学, 総合科学研究科, 准教授 (30371743)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
下川 信也 国立研究開発法人防災科学技術研究所, 水・土砂防災研究ユニ ット, 総括主任研究員 (40360367)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 非平衡系 / 熱帯低気圧 / エントロピー生成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,昨年度に引き続き,地球科学分野での非平衡散逸現象の典型的な例として熱帯低気圧(台風)に注目し,その生成と発達の仕組みを研究した。熱帯低気圧の運動エネルギーの生成過程とその散逸過程を考慮したエネルギー収支モデルを用いて解析を行った結果,熱帯低気圧は同じ温度境界条件の下で2つの異なる定常状態(静止状態と動的定常状態)が実現可能であることが解った。この内,静止状態は力学的に可能だが外からの擾乱に対して不安定で,擾乱を加えると動的定常状態に変化すること,そして動的定常状態は外からの擾乱に対して安定であることが示された。この結果は,エントロピー生成率がより大きい動的定常状態が外からの擾乱に対してより安定であるという非線形非平衡系に対して提案されている統計的性質(エントロピー生成最大説)と整合する。また,エネルギー収支モデルに基づき,熱帯低気圧の定常状態での到達可能強度(最大可能強度)を海面水温の分布から推定する方法を開発した。この方法を用いて,過去から現在そして将来の海面水温の変化に伴い,太平洋上の熱帯低気圧(台風)の発生域とその最大可能強度の分布がどう変化するかを調べた。その結果,台風の最大可能強度は,1990年代に顕著に増加していること,そして将来の海面水温の上昇(温暖化)に伴い台風の最大可能強度は増加するが,必ずしも日本付近での台風の強度の増加につながらない可能性が示された。これらの結果の一部は,国際学術誌上に投稿され,論文が受理され印刷になった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,昨年度に引き続き,地球科学分野での非平衡散逸現象の典型的な例として,熱帯地方の高温海水上に発達する熱帯低気圧に焦点をあて,その生成と発達の仕組みを研究した。熱帯低気圧は,これまで主に力学的な視点から大循環モデルを使って研究されてきたが,熱力学的な視点から運動エネルギーの生成率とその散逸率を考慮したエネルギー収支モデルを使ってその挙動を調べ,安定性とエントロピー生成率の関係を調べた研究は本研究が最初である。またエネルギー収支モデルを用いて,太平洋上の熱帯低気圧(台風)の最大可能強度の推定を行い,地球の気候変化に対して台風の最大可能強度やその分布がどう変化するかについて新しい知見を得ることができた。この結果は,将来の気候の変化に伴う台風の強度の変化やその対策を考える上でも重要である。これらのことから,本年度は,おおむね順調に研究が進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,これまでの研究を踏まえ,主に次のテーマを中心に研究を進める。
1) 前年度までの研究成果を踏まえ,熱帯低気圧の強度に加えてその経路が決まる仕組みを研究する。太平洋上に発生し発達した過去の熱帯低気圧(台風)の強度と経路の解析を行い,その統計的な性質を調べる中で,非線形非平衡系の時間発達についての基本的な仕組みを探り,エントロピー生成率との関係を調べる。 2) 乱流や対流による運動量と熱の輸送率を理論とデータ解析により研究する。特に,大気と地面の境界に発達する接地境界層の中での熱と運動量の輸送率の空間分布とその時間変化を観測データに基づいて解析し,それらの空間分布と変動特性の特徴を調べ,エントロピー生成率との関係を研究する。また,地表の形態が変化する条件下での運動量や熱の輸送率と表面形態との関係を調べ,表面形態の自己組織化現象についても研究を行う予定である。
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