2014 Fiscal Year Research-status Report
阿蘇-4巨大噴火直前に流出した高遊原溶岩の物質科学的研究
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25400491
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
長谷中 利昭 熊本大学, 自然科学研究科, 教授 (50202429)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 阿蘇-4火砕流 / 巨大カルデラ噴火 / 大峰火山 / 高遊原溶岩 / マグマ供給系 / 前駆現象 |
Outline of Annual Research Achievements |
巨大噴火に先立つ地下のマグマ溜りの物理化学過程の解明は,巨大噴火の予測に役立てることができる.9万年前に起った阿蘇-4カルデラ噴火の前にカルデラ外に流出した高遊原溶岩は,巨大噴火直前のマグマ供給系に関して重要な情報を与えてくれる.本研究の目的は,高遊原溶岩および阿蘇-4カルデラ噴出物の化学組成,鉱物組成を詳しく調べ,地下のマグマ溜まりで起った変化を捉えることである. 高遊原溶岩台地のボーリングコアのうち,代表的コア6本について,深度5mあるいは10mごとに斑晶モード組成,化学組成,斜長石の配列,斜長石の溶融の度合い,気泡量を調べた.これらのデータから溶岩流の各パラメータの垂直変化,水平変化を検討し,高遊原溶岩が単一のフローユニットであることの確証を得た.単一の溶岩流における溶岩の流出率(E)をCalvari & Pinkerton(1998)の方法で推定した.雲仙の新焼溶岩について推定するとE=4.7m3/sとなり,総体積から計算すると流出時間が66日となり,古文書に記録されている約2ヶ月と良い一致を得た.続いて高遊原溶岩について推定するとE=42m3/sとなり,流出に要した時間は約1年5ヶ月であった.また古地形を検討すると溶岩は大峰火山から2.5kmで150mの落差を流下し,窪地を埋めた後に5km先に流れたことが判明した. 高遊原と対比するために阿蘇-4火砕流の初期~中期噴出物(肥猪火山灰流,小谷火砕流,八女火砕流,弁利スコリア流の堆積物)の鉱物組成を分析した.その結果,斜長石の組成が,高遊原~肥猪は単一ピーク,小谷,八女~弁利(軽石)が2ないし3つのピークがあり,アノ-サイト端成分が増え,組成幅も広くなる傾向が認められた.巨大火砕噴火のマグマ溜りの組成変化の手がかりとなる貴重なデータが得られたと考える.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高遊原溶岩台地側端崖,末端崖から採取した溶岩試料と、大峰火砕丘から採取したスコリア試料,国土交通省九州地方整備局,熊本河川国道事務所のボーリングコア6本から採集した試料の斑晶モード組成,化学組成,斜長石の配列,斜長石の溶融の度合い,気泡量などのデータを取り,それらの垂直,水平方向の変化を求めた.また断層運動の影響を除いた原地形の復元をした.さらに単一溶岩流の流出率の推定を行い,噴火継続時間の推定を行った. 前駆噴火の大峰火砕丘,高遊原溶岩,阿蘇-4第1サイクルの肥猪スコリア流,小谷火砕流,八女火砕流,弁利スコリア流の順で噴出物中の斜長石,斜方輝石の組成幅および組成の時間変化を調べた.組成変化だけでなく,組成ピークの数,組成幅の変化が捉えられ,巨大火砕噴火のマグマ溜りに関して満足行く情報が得られた. メルト包有物の分析(EPMAによるガラス組成分析,FT-IR装置によるH2O含有量の分析)を始め,議論に耐える試行データを得た.
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Strategy for Future Research Activity |
高遊原溶岩の代表的な試料について研磨薄片を作り,熊本大学理学部地球環境科学講座のSEM-EDS(JOEL走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分析装置)および熊本大学工学部附属工学研究機器センターの電子線マイクロアナライザ(島津製作所EPMA-1720H),共同研究を申請し認められた東京大学地震研究所のSEM-WDS(JOEL電子プローブマイクロアナライザーJXA-8800)で,鉱物,ガラスおよびメルト包有物の分析,FT-IR分析を行う予定である.今後は,阿蘇-4の前駆噴火~阿蘇-4初期噴火~阿蘇-4(第1サイクル)主活動期~阿蘇-4(第1ステージ)末期のマグマ混合を連続的に追い,岩石学的な性質の変化,物理化学条件の変化を捉えていきたい. 巨大カルデラ噴火の前駆現象を岩石学的にとらえる研究は少ないが,国内外で報告例が見られるようになった.それらの研究との比較検討は本研究の重要な部分である.原子力発電所の再稼働審査において巨大カルデラ噴火の長期予測を検討することが重要となっている.これらの状況を把握しながら,研究を続けていく考えである.
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Research Products
(11 results)