2014 Fiscal Year Research-status Report
水素結合の対称化周辺圧力における内部構造変化に関する研究
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25400507
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
栗林 貴弘 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (20302086)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 水素結合の対称化 / 単結晶X線回折 / δ-AlOOH / 高圧 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では申請期間内に,1)δ-AlOOH相において水素結合の対称化はどの程度の圧力で起こり得るのか?2)生じる場合には,水素結合の対称化前後において構造的な相違や物理的性質の変化はどのように生じるのか?さらに,3)異なる化学組成を持ち同一の歪んだルチル型構造をとる鉱物群や類似する構造において,組成変化によって高圧下における水素結合の振る舞いは異なるのか?という3点を解明することを研究目標としている. δ-AlOOH相の圧力誘起相転移が8 GPa付近で生じることを初年度に明らかにしており,2年目は,相転移後の12 GPa付近までのデータの解析を進めた.公表した論文でも議論されたが,静的な現象と動的な現象を区別することが困難であるため,この点について赤外分光やラマン分光による分光学的な手法から振動情報を入手し,上記現象を把握する手掛かりを掴むことを試みた.3)の目的のために試料の合成とその合成物の評価を行った.類似する構造を持つAlを含有するphase D相の取得に成功し,他の目的相の取得を試みている.導入した偏光顕微鏡により,合成実験生成物の評価過程が効率化された.実験生成物に対して,より高分解能な光学的観察と,それを記録保存するための画像観察記録システムを導入(27年度)する予定である. 水素結合に関連した議論を行うために,Alを含有するphase D相だけでなく結晶構造は全く異なるが関連するAl,Hを含有するMgSiO3相に対して,放射光共同利用(PAC. 2012G015, 2013G127)による単結晶放射光X線回折実験を行った.構造の精密化から,phase D相における元素置換による構造変化に関して,構造中の原子間距離の変化から結晶化学的な議論を進めており,3)の目的達成に向けて比較検討を行っている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年目の到達目標は,研究初年度の結果を受けて,圧力誘起相転移後のδ-AlOOH相の構造変化に関して精査すること,上述研究目的3)異なる化学組成を持ち同一の歪んだルチル型構造をとる鉱物群や類似する構造において,組成変化によって高圧下における水素結合の振る舞いは異なるのか?に関して研究を進めていくことである. δ-AlOOH相の相転移後のX線回折実験や良質の合成試料の入手とその評価を行えた点において,当初目的を十分に果たせていると判断した.放射光共同利用(PAC. 2012G015, 2013G127)により,Al-Hを含有するMgSiO3ペロブスカイトや,Alを含有するphase D相の単結晶放射光X線回折実験を行うことができ,元素置換による構造変化について構造中の原子間距離の変化から水素結合に関連した結晶化学的な議論を進めている段階であり,論文として公表することを目指している.一方,さらなる高圧下(12 GPa以上)でのδ-AlOOH相の構造変化に関しては,引き続き解析を進行中である.
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は,特に2年目までの研究により明らかとなりつつある「異なる化学組成を持ち同一の歪んだルチル型構造をとる鉱物群や類似する構造において,組成変化によって高圧下における水素結合の振る舞いは異なるのか?」について,最終年度の取り組みの結果とこれまでに得られた結果をコンパイルさせることで,高圧力下における水素結合の振る舞いに関して,体系的に議論を進め,新しい知見を得ることを目標とする. このために,既に入手済のものに加えて新たな合成実験から目的試料の調達を目指し,組成変化に伴う構造変化に着目した研究の推進を計画している.偏光顕微鏡(平成26年度3月導入)により,実験生成物の評価が効率化され,X線回折実験までの時間的プロセスが改善されており,目的達成のための準備は整っている.水素結合に関連した議論を行うために,構造の全く異なるAl,Hを含有するMgSiO3に対しての元素置換による影響や,類似するphase D相における元素置換による構造変化に関する知見を入手し,これら鉱物中における構造中の原子間距離の変化から結晶化学的な議論を進めており,3)の目的達成に向けて比較検討を行っている.組成変化に関した実験では,phase D相における元素置換の効果と,δ-AlOOH相における影響の比較により目的3)に対する新たな知見の入手を計画している.具体的には,Al3+の代わりにMg2+やFe2+,Fe3+といった元素置換による影響を解明することであり,引き続き,放射光を用いたX線回折実験や実験室における赤外・ラマン分光実験等によるデータの収集により水素結合の対称化プロセス解明に向けた研究を進める予定である.
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Causes of Carryover |
26年度は凡そ40万円の次年度繰越を行った.26年度に導入した偏光顕微鏡による観察において,結晶試料そのものの光学的特徴の観察や相転移に伴う変化の観察をするにあたり,より高分解能な光学的観察を行う必要が生じた.これを解決するための顕微鏡画像観察記録システム(50万円弱)を導入する(最終年度の4月導入)にあたり,当該年度の残高の関係から最終年度予算と合算する必要があったため.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前述したように,平成27年4月に偏光顕微鏡下での撮影記録システムを導入する予定であり,これにより残高は完全に処理される. 平成27年度予算は,一部を前述の撮影システムの購入に充て,他の物品費として課題研究遂行のためのX線回折実験用品,実験結果の解析や研究成果を取りまとめるためのPCの購入に充てる.また,実験や学会参加(研究成果発表等)のための旅費として計画的に使用する予定である.
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Research Products
(4 results)