2014 Fiscal Year Research-status Report
結晶相転移とプロトン移動互変異性化による結晶色調変化の解明
Project/Area Number |
25410005
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
植草 秀裕 東京工業大学, 理工学研究科, 准教授 (60242260)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ベイポクロミズム / プロトン転移 / 粉末未知結晶解析 / 結晶構造解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、結晶周囲の環境である湿度や有機蒸気に応じて結晶が相転移し、色調変化を示すベイポクロミズム有機結晶に関するものである。この特異な現象の原理を明らかにし、さらに効率的に色変化を示す有機結晶を設計することを目的としている。特に三次元の詳細な分子構造変化を結晶解析により明らかにし色変化の原因を解明する。 実施二年目は、前年度に新規なベイポクロミズム有機化合物として見出された、キノロン系抗生物質群に関して集中的に研究を行った。この系では、分子内プロトン転移による双性イオン形成が分子軌道のエネルギーレベルに影響し、色調変化を引き起こしている。プロトン転移が蒸気による結晶の溶媒和のような比較的温和な条件で可逆的に起きることは、この系の「蒸気センサー」としての応用を示唆しており興味深い。前年度は有機蒸気の接触により、脱水和転移、分子内プロトン転移を経て色調変化を示す系を見出したが、今年度は有機蒸気の選択肢を広げるために塩基性分子の蒸気に注目した。この分子を結晶内に吸収し共結晶形性をすると、キノロン系分子と塩形成が起こり、強制的に塩基へプロトン転移が起きることが期待される。このような積極的なプロトン転移系を探索することで、多様なの塩基性分子を検出する結晶を作成することが可能である。 例えば、エンロフロキサシン無水和物結晶は黄色であるが、代表的な塩基性分子であるモルフォリンの蒸気と接触することにより、結晶内にモルフォリン分子を取り込む。この結果、 エンロフロキサシンは末端のカルボキシ基からプロトンが脱離したアニオンとなり、分子内水素結合による安定な擬六員環構造が破れ、キノロン部位の共役が変化することで可視吸収スペクトルが長波長シフトし、黄色から無色結晶へと色調変化することを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画では、第二年度以降に(1)共結晶作成による新規ベイポクロミズム結晶の創製、(2)ベイポクロミズム反応後の粉末結晶解析、(3)まとめを行う、としている。 (1)については、本年度に見出したエンロフロキサシン無水和物結晶はモルフォリン蒸気を吸収することで塩共結晶を形成し、黄色から無色へのベイポクロミズムを示したことから、目的を十分に達成したと言える。(2)の粉末結晶解析については、エンロフロキサシン・モルフォリン共結晶の粉末X線回折測定を行うとともに、共結晶の溶液成長を行い、それぞれのX線回折パターンを比較したところ、同一性が確認できたことから、単結晶構造解析法を使用することに切り替えた。ただし、蒸気反応による結晶性試料作成とその高分解能X線回折測定には高度な技術を必要とし、粉末結晶解析の経験が大いに生きている。(3)のまとめについては、着手しており、次年度に向けて着実に実行する予定である。 以上より、計画は概ね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の方針としては、さらに多様な有機蒸気によるベイポクロミズムの発現系の探索を行う。特に、より大きな有機分子によるベイポクロミズムを期待している。大きな分子を吸収するためには、比較的隙間がある結晶を必要とするため、クリスタルエンジニアリングを利用し、隙間のある結晶を設計する。実際には共結晶形成が有望であると考えている。安定な共結晶を作成するための分子は安息香酸誘導体を検討しており、強い酸・塩基相互作用による共結晶形成を行う。一方、吸収(検出)するより大きな分子については、多種のアルコール有機溶媒を検討する。またトルエンなど有害蒸気として検出方法の開発が望まれている物質があり、ターゲットとしてふさわしいと考えている。 また、結晶構造の安定性を理論計算を用いて証明することを計画している。このためにはDFT-D法が適しており、予備的な調査を行った。この計算は結晶構造解析に誤りがないかどうかを保証する手法としても適しており、粉末結晶解析には必須の技術である。 まとめとしては、本研究で明らかになったベイポクロミズムの原理と、それを可能にする結晶構造設計、プロトン転移と色調の関係について考察を行う予定であり、軸足をまとめに移しつつも、新規なベイポクロミズム系の開発を続ける計画である。
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Research Products
(5 results)