2013 Fiscal Year Research-status Report
弱く結合する分子間錯体の集合状態を知る磁気プローブの確立
Project/Area Number |
25410013
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
加藤 立久 京都大学, 国際高等教育院, 教授 (80175702)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | Cycloparaphenylene / ラジカルカチオン / ESR測定 / ENDOR測定 / スピン密度の非局在化 / 分子内運動 / 超微細構造 |
Research Abstract |
N@C60と強い分子錯体を形成するCycloparaphenylene(CPP) ホスト分子について,化学酸化で得られるラジカルカチオン種の電子スピン共鳴(ESR)分光測定を詳細に行った.Phenyleneリングの数が5, 6, 8, 10, 12であるCPPラジカルカチオン種全てのESRスペクトルを測定することに成功し, 分子内のプロトン核1Hが等価に電子スピンと相互作用して得られる構造が明瞭に観測できた.つまり,ラジカルカチオンの電子スピンは全てのPhenyleneリングに等しく非局在化して拡がっていることが確認出来た.また,自然存在比の炭素同位体13Cの核スピンとの相互作用による微細構造がESRスペクトルに観測できたので,1H核,13C核と電子スピンとの相互作用を詳しく知るために電子スピン核スピン二重共鳴(ENDOR)分光を実施した.ラジカルカチオン種のなかでも化学的に安定な Phenyleneリング数が 6である[6]CPPラジカルカチオン種のENDOR観測を集中的に行った.その結果,CPP分子の持つ特徴的な電子状態に由来する分子の柔らかさが反映されたESRスペクトルとENDORスペクトルを得ることができた.1H-ENDOR測定や13C-ENDOR測定で得られた相互作用周波数はESRスペクトルの超微細構造の分裂幅に対応していたが,13C-ENDORスペクトルパターンが分子内運動に由来する特徴的なものになった.つまり分子内構造変化に伴い,13C核上の電子スピン密度の符号が,負から正へ大きく変動することにより生ずるスピン緩和メカニズムに支配されるものとして観察された.この特徴的な分子構造の柔らかさは各種フラーレン分子との分子錯体形成能力に反映しているものと思われる.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初実施計画に挙げていた,N@C60と強い分子錯体を形成するCycloparaphenylene(CPP) ホスト分子について,その電子状態に由来する分子の柔らかさを観察することができた.特にラジカルカチオン種について,ESR測定とENDOR測定により詳細な測定が実施できた.また,共同研究によりX-線解析測定で中性の[8]CPP分子がラジカルカチオン,ジカチオンと酸化されていくにつれ,Phenyleneリング同士の歪みが減少していくことが観測できた.(報告論文: Angew. Chem. Int. Ed. Engl., vol.52, pp.13722 –13726(2013)) また,この構造変化がCPP分子の特徴的な電子状態が示す擬ヤーンテラー効果に由来することをつきとめた.(報告論文: Chem. Phys. Lett., vol. 598, pp. 69-74(2014))
|
Strategy for Future Research Activity |
[6]CPPラジカルカチオン種について,ESR測定とENDOR測定により詳細な測定データが蓄積できたので,今後はこららのデータ解析を進めていく.また,他の[8]CPP, [10[CPP, [12]CPPについてもそのラジカルカチオン種のESR測定,ENDOR測定を行い,[6]CPPラジカルカチオンの結果と比較することでCPP分子の持つ特徴的な分子構造の柔らかさを浮き彫りにしていく. また新しい計画として,分子錯体の究極の姿としてホスト単結晶格子の中にトラップされたゲスト・ラジカル分子を測定対象にしていきたい.つまり,ホスト単結晶格子にゲスト・ラジカル分子をトラップすることで,X-線結晶回折と単結晶ESR測定の同時観測を試みて,詳しい分子構造と共に結晶内分子運動を明らかにしたい.
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初計画していた測定試料の準備並びに測定のための出張がほぼ完了したので,次年度の観測データ解析用ソフト購入に充てる目的で当該年度の所要額の1割程度を次年度へ残した. 当該年度で完了したENDOR測定結果を解析するために、Math Works社のMATLABソフトウェアを購入する.
|
Research Products
(5 results)