2013 Fiscal Year Research-status Report
クマル酸とその誘導体の光誘起トランス-シス異性化機構の解明
Project/Area Number |
25410017
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
江幡 孝之 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (70142924)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
井口 佳哉 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (30311187)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 光異性化 / レーザー分光 / 超音速分子線 / PYP / 無輻射過程 |
Research Abstract |
超音速分子線中に生成した極低温気相クマル酸エステルOMpCAとパラ位の水酸基をメタ位、オルト位に置換したOMmCA, OMoCAの単体および水素結合体について、S1電子励起状態の寿命測定を行った。OMpCAについては単体と水分子が水素結合したOMpCA-H2Oについては既に報告しているが、今回アンモニア分子との水素結合体OMpCA-NH3でも同様の傾向を示した。さらに時間変化を解析したした結果、OMpCAの水素結合体では、S1励起直後一度分子内振動緩和した後、エネルギーが障壁を超えて異性化する、と考えると観測された時間変化やそのエネルギー依存性が説明できることが分かった。これらの解析により、OMpCA-H2O水素結合体では異性化の障壁が200cm-1、OMpCA-NH3水素結合体では700cm-1であると見積った。一方、OMmCA, OMoCAのS1電子励起状態の寿命は15ナノ秒と長く、またエネルギーが大きくなっても寿命があまり変わらないという結果を得た。このことより、パラ位に水酸基をもつOMpCAのみが、S1電子励起状態で速やかにトランス体からシス体へと異性化することが明らかになった。実験と平行して理論化学計算CIS(D)により、OMpCA、OMmCA、OMoCAそれぞれについて電子励起状態でのトランスーシス異性化座標に沿ったポテンシャルエネルギー計算を行った。OMpCAは異性化に対してエネルギー障壁は存在しないが、OMmCA、OMoCAではどちらも障壁が存在する結果となり、実験結果を支持するものとなった。これらの結果について、国内学会や国際学会で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
クマル酸エステルに関しては、当初の計画通り、パラ体、メタ体、オルト体の各目的分子を化学合成して、S1-S0電子スペクトルや励起状態寿命測定の実験を進めることができた。その結果、異性化が置換基の位置で大きく左右されることを実験で明らかにすることができた。また、信頼できる励起状態のポテンシャルエネルギー計算を行うことができた。無輻射過程の二つの可能性(異性化およびn,pi*状態への失活)について計算結果を得ることができた。これらの結果から、励起状態の無輻射過程がビニル基周りのトランスーシス異性化である確信を得た。またパラ体については、水分子より塩基性の強いアンモニア分子との水素結合体の方がさらに励起状態寿命が長くなることが分かり、異性化の障壁が水素結合結合強度に依存することも明らかにすることができた。一方、水酸基をメトキシ基に置換した分子の合成にも着手しており、これらの分子に対してもレーザー分光実験や寿命測定を開始するべく準備をしている。これらのことより、当初の計画をおおむね順調に進めることができていると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
置換基の効果を検証するために、水酸基をメトキシ基に変えた分子について励起状態寿命の測定を開始する。合成はほぼ終わっており、パラ体、メタ体、オルト体合成次第順次実験を始める予定である。また、当初のもう一つの目的であった「時間分解光電子観測装置」の立ち上げを開始する。この分光装置は、ピコ秒ポンプープローブ法によるイオン化で生成した光電子の運動エネルギー分布を観測する装置で、この観測により、S1状態励起後のクマル酸エステルがどの電子状態を経由して失活していくかを実時間で明らかにしていく。この研究には、平行して電子励起状態とイオン化状態のポテンシャルエネルギー計算も行い、実験結果を解釈するポテンシャルエネルギー面のデータが必要となる。一方、新たな分子の化学合成も行う。目的とする分子はビニル基部分が回転できない構造をもつ分子で、この分子の励起状態寿命を測定することで、当初の課題であった、S1電子状態の最初の失活課程が、異性化であるかあるいはn,pi*状態への失活であるのか、明らかにしていいく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
注文した物品(消耗品)の納入が遅れることが分かったため、あらためて次年度購入とした。 物品の新規購入を早めるとともに、全体的に適切に処理をおこなう。
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Research Products
(19 results)