2013 Fiscal Year Research-status Report
水和数の精密制御による小さなタンパク質の折れ畳みの観測:真の駆動力は何か
Project/Area Number |
25410022
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
迫田 憲治 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (80346767)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | クラスター / エレクトロスプレーイオン化 / タンパク質 |
Research Abstract |
タンパク質が機能を発現するには,適切な構造に折れ畳む必要がある.タンパク質をはじめとする生体機能性高分子は,水溶液系でその構造を安定化させているので,タンパク質の構造安定性にとって,近傍の水和構造は極めて重要である.また一方で,近年,タンパク質と直接には相互作用していない,遠方にある水分子の並進運動(並進エントロピー)や,それに伴う水分子ネットワーク構造の組み替えが,タンパク質の効率的な折れ畳みを駆動している可能性が指摘されている.このことは,即ち,タンパク質の折れ畳みの駆動力はタンパク質自体に内在しているのではなく,溶媒である「水」の運動が真の駆動力であることを意味している.そこで本研究課題では,タンパク質の効率的な折れ畳みに対して,水分子がどのような静的・動的役割を果たしているのかを解明することを目的とし,研究を行った. 本年度は,水和生体分子クラスターを気相中に生成するためのイオン源の開発,改良を行った.当研究室に設置されていたエレクトロスプレーイオン化源を改良した結果,以前の方式と比較して,脱溶媒効率を向上させることが出来た.また,エレクトロスプレーイオン化が難しい系に対しても適用が可能である,ソニックスプレーイオン化源を新規に開発し,イオンの生成を確認した. 上記の装置開発に加え,タンパク質の低温変性のモデルとして興味を集めている,ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)[PNIPAM]のコイル-グロビュール転移に関する研究を行った.その結果,PNIPAMのコイル-グロビュール転移に対して,排除体積効果と周辺媒質の誘電率が重要な役割を果たしていることを見出した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度の研究計画では,真空装置の開発と改良が主要な実施事項になっていた.本年度は,既存のエレクトロスプレーイオン化源の改良を行い,イオン化効率の向上を達成したうえで,エレクトロスプレーイオン化とは異なるソフトイオン化源であるソニックスプレーイオン化源を開発した.これらのイオン化源によって,テスト分子のイオン信号を得ることができた.また,次年度以降の研究を見据えて,凝縮相におけるポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)のコイルーグロビュール転移に関する研究も開始することが出来た.よって,現在までのところ,研究課題はおおむね順調に進行していると言える.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に開発したエレクトロスプレーイオン化およびソニックスプレーイオン化源を用いて,水和生体分子イオンの生成を試みる.必要に応じて,各イオン化源の改良を行い,分光実験を行うのに十分な量のイオンを生成できるようにする. また,既に平成25年度から取り組んでいる,ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)[PNIPAM]のコイルーグロビュール転移に関する研究も継続し,構造転移に対して,高分子の遠方にある水分子が果たす役割に関する実験データを蓄積する.また,平成25年度に開発したイオン化源を用いて,PNIPAMを空間捕捉し,PNIPAMの巨大水和クラスターに対してレーザー分光を行うことを予定している.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は,装置開発が主な実施事項であり,エレクトロスプレーイオン化源とソニックスプレーイオン化源の開発に加え,イオンの捕捉効率を高めるためのイオンファネルの開発も予定していた.しかしながら,新規に開発したイオン化源によって,ある程度十分な量のイオンを生成することが明らかとなったので,イオンファネルの開発を一時中断し,タンパク質の折れ畳みのモデル分子であるポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)のコイルーグロビュール転移に関する研究を前倒しして行った.そのため,当初考えていた研究計画とは逆の順番で研究が進行したため,主にイオンファネルの開発費用が次年度使用額に計上された次第である. 平成25年度に前倒しで実施したポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)のコイルーグロビュール転移に関する実験に関しては,ある程度の目途がついたので,平成26年度には,ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)をエレクトロスプレーイオン化することを試みるが,高分子溶液の濃度を高めることは難しいので,生成するイオン信号がテスト分子と比べて減少することが予想される.よって,平成26年度には,イオンの捕捉性能を向上させるためにイオンファネル等のレンズ系を開発する予定であり,これに予算を投入する計画である.
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