2014 Fiscal Year Research-status Report
水和数の精密制御による小さなタンパク質の折れ畳みの観測:真の駆動力は何か
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25410022
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
迫田 憲治 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (80346767)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | タンパク質 / 水和効果 / 赤外分光法 |
Outline of Annual Research Achievements |
タンパク質は,水系でその構造を安定化させているので,タンパク質の構造安定性にとって,周りの水和構造は極めて重要である.水和構造形成の主要な駆動力である水素結合は,系が持つ熱エネルギーによって,頻繁に解離と生成を繰り返していると思われる.よって,タンパク質の折れ畳みを理解するには,タンパク質を取り囲む水和構造の生成と崩壊,及びそれに伴う水和構造の組み替えまで考慮に入れる必要がある.一方で,近年の研究から,タンパク質から遠く離れた水分子もタンパク質の構造安定性に対するエントロピー利得に大きく寄与している可能性が指摘されている.そこで本課題では,生体関連高分子の構造安定性に対して水分子や共存分子が果たしている役割を解明することを目的として研究を行った. ヘムタンパク質の1つであるミオグロビンは,409nm付近の光を強く吸収することが知られているが,ミオグロビンの立体構造が破壊されると,その吸収強度が著しく低下する.このことを利用して,ミオグロビンの立体構造安定性に対する水分子や共存分子の効果を調べた.また,水分子が形成する水素結合ネットワークを変化させる目的で水溶液に塩を添加した系に関しても調査を行った.その結果,塩添加による水和構造の変化がミオグロビンの安定性に影響を及ぼすことを見出した.さらに,共存分子として添加したポリエチレングリコールがミオグロビンに直接吸着することによって,その立体構造安定性が変化することを見出した.今回見出されたこれらの変化に対して,水分子による水和効果がどの程度影響しているのかを調査するために3ミクロン帯の赤外スペクトルを測定した.その結果,水分子による赤外吸収バンドの形状変化が明確に観測された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度の研究計画では,主にポリペプチドやタンパク質の構造転移の観測が主な課題となっていた.今年度はヘムタンパク質のミオグロビンに標的を絞り,その構造転移を観測すると共にミオグロビンを取り囲む水分子の赤外スペクトルを測定することで,水和構造とタンパク質の構造安定性の関係を示唆する実験データを得ることができた.また,前年度から継続中であったイオン捕捉装置も既存の装置に実装し,基本設計通りのパフォーマンスを示すことを確認した.よって,当初予定されていた研究計画はほぼ予定通りに進展していると言える.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に行ったミオグロビンの構造転移に関する研究を拡張し,他のヘムタンパク質,たとえばヘモグロビンやシトクロムcの構造転移や立体構造安定性に対する水分子や共存分子の影響を調査する.また,これまでは系の温度を精密に制御することによってタンパク質の安定性をコントロールしていたが,今後は系に加える変性剤の濃度を変化させることによって,室温付近におけるヘムタンパク質の立体構造安定性を調べる予定である.異なる種類のタンパク質を対象とした実験から得られる情報を相補的に生かすことによって,タンパク質の効率的な折れ畳みや構造安定性に対する水分子の役割を明らかにする.
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