2013 Fiscal Year Research-status Report
パラジウム、白金混合多核錯体を反応場とする分子活性化とその変換
Project/Area Number |
25410061
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
田邊 真 東京工業大学, 資源化学研究所, 助教 (80376962)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 多核錯体 / 異種金属 / ケイ素 / パラジウム / 白金 / 水素 / 二次元構造 |
Research Abstract |
本研究の目的は、ケイ素、ゲルマニウムの典型元素とパラジウム、白金の遷移元素で構築される平面構造多核錯体を反応場とする有機分子の活性化と変換反応である。特に、平面構造をコアとする多核金属錯体は、二次元共役系による広範囲の多電子移動、反応基質の多金属中心による活性化など、一次元鎖状型の多核錯体とは異なる化学的性質が期待される。今年度の主な研究実績は、平面型多核錯体の迅速かつ効率的合成法の開発、アルキン等の不飽和有機分子、プロトン等の電子欠損化合物との反応を検討したことである。一般に、多核金属錯体の精密合成は原子レベルで反応を制御する必要があるため、その合成法の開発は困難である。従来法では、単核及び二核錯体を前駆体としてその多核化反応を検討していた。今回、アミノシリルボランと呼ばれるシリレン前駆体、低級ヒドロシラン、低級ヒドロゲルマンと0価パラジウム、白金錯体を用いて、多核金属錯体を迅速かつ効率的に合成する方法を見出した。実際の合成実験では、有機ケイ素、ゲルマニウム反応剤と原料錯体との混合比が重要であり、反応温度や溶媒選択が生成物の収率や反応速度に影響を及ぼした。本研究で対象とする多核錯体の特徴は、シリレン、ゲルミレン配位子の電子供与性により中心骨格を安定化させる、アルキン等の不飽和有機分子との反応ではケイ素-炭素、ゲルマニウム-炭素結合が形成する反応が優位に進行する、という興味深い事実を見出した。また、白金とパラジウムを含む異種金属四核錯体の合成も可能とした。その構造は、中心部位に1つの白金、その周囲に3つのパラジウムで中心骨格を形成していることを明らかにした。その反応性を検討した結果、基質がパラジウムより白金に優位に相互作用する異種金属錯体の特徴を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究初年度に、ケイ素、ゲルマニウムを橋架け配位子とする平面構造多核錯体の合成法を見出したので、その達成度は十分である。従来法では、単核錯体の熱分解反応、又は、複数の単核錯体を混合する反応であり、その副生成物との分離精製が難しく、目的とする多核錯体の収率を低下させていた。今年度の研究成果では、合成ターゲットとなる三核及び四核錯体を構成する原料錯体と橋架け配位子となる有機反応剤とのシンプルな反応から、これら多核錯体を精密に合成する方法を見出した。その結果、合成実験の短縮化、実験作業の簡略化、格段の収率向上が達成された。 これにより、多核金属錯体を反応場とする不飽和有機分子の活性化、電子欠損化合物の相互作用を調査する研究へといち早く展開することができた。白金三核錯体によって活性化されたアルキン分子は、隣接する複数の遷移金属と配位又は解離を速やかに繰り返しながら、金属-ケイ素結合、金属-ゲルマニウム結合への挿入反応が進行し、アルキンが多点配位した新しい三核錯体を与えた。また、酸との反応によるプロトン化では、3個の白金と相互作用するヒドリド配位子の存在を明確にした。これらの研究成果は古くから知られる橋架けカルボニル配位子を持つ三核白金錯体の反応性と全く異なるものであり、その成果は興味深いものである。平面構造四核錯体に対するプロトン化反応では、各種NMR測定の結果から中心白金にヒドリド配位子をもつ四核錯体の生成が推定された。異種金属錯体では安定な結合を形成する白金を基質配位点として認識する実験結果を与えた。このようにして、研究初年度に多核錯体の合成法を幾つか見出したので、多核錯体に対する不飽和有機分子や電子欠損分子等との基礎反応を調査することができ、本研究は順調に進展している、或いは、当初の計画以上に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は、昨年度と同様に、本研究の対象であるケイ素、ゲルマニウムを橋架け配位子とする三核及び四核錯体の合成を検討し、系統的な実験遂行により多核金属錯体合成法の一般化を試みる。合成実験では、多核錯体を構成要素とする原料錯体と橋架け配位子との等量比が生成する多核錯体の収率に影響すること、配位子の置換基効果や異種金属元素の導入は中心コアの電子状態に影響すること、これらの事実を徹底的に精査する。特に、異種金属錯体の精密合成は実験的に困難な研究課題であるが、それぞれの遷移金属元素と橋架け典型元素の結合形成の安定性を理解することで、元素配列が精密に制御された多核金属錯体の合成が実現できると期待される。 もうひとつの重要な研究課題として、平面構造多核錯体に由来する基質活性化、分子変換反応を検討する。昨年度の研究実績により、電子供与性の橋架けケイ素、ゲルマニウム配位子は、従来のカルボニル配位子多核金属錯体と比べて、より安定で強固、電子豊富な遷移金属骨格を形成することを見出した。そのため、金属表面に類似した高活性な反応性を示すことが期待される。具体的には、酸性度の低い有機化合物(水素、水、アルコール等のプロトン性溶媒)、ルイス酸(ホウ素化合物)との反応を検討する。橋架け配位子の電子供与性から中心骨格を安定に保持できる性質を基にして、多核錯体へのプロトン酸の付加、その後の骨格変換を利用した反応を見出し、多核錯体特有の化学的性質を総合的に理解する。さらに、異種金属錯体を扱う研究では、基質の活性化と変換反応をおこなう遷移元素の役割分担をもつ多核金属錯体の新しい反応系を明らかにする。
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Research Products
(16 results)