2013 Fiscal Year Research-status Report
NHCカルベンの配位制御による多核錯体反応場とハイブリッド型分子触媒の創製研究
Project/Area Number |
25410063
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
山口 佳隆 横浜国立大学, 工学研究院, 准教授 (80313477)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 金属錯体 / 含窒素環状カルベン / カルベン-トリエチルボラン化合物 / ハイブリッド型NHC配位子 / 配位制御 / 多核錯体反応場 |
Research Abstract |
金属錯体を触媒として利用した基質変換反応は,新しい化合物の創製や効率的な合成法を確立するために重要な研究課題である。この目的を達成するためには,金属のもつポテンシャルを高い次元で引き出すための高度に設計された機能性配位子の創製が重要な鍵を握る。そこで本研究では,含窒素環状カルベン(以下,NHCと省略)を他の配位子と組み合わせたハイブリッド型配位子を新たに設計・合成し,NHCの配位制御による多核錯体反応場の創製に関する検討を行った。 ハイブリッド型配位子として,窒素系多座配位子である2,2'-ビピリジンや1,10-フェナントロリンとメチレン鎖を介してイミダゾール部位が結合した化合物の合成に着手した。その結果,多段階の合成反応が必要であるものの,目的とするハイブリッド配位子の前駆体合成に成功した。これらの配位子を用いて,窒素配位部位での金属との錯形成を検討した。その結果,いくつかの遷移金属塩化物を用いて目的錯体の合成に成功した。 NHCの配位制御を行うために必要であるNHCの保護・脱保護に関する検討を行った。これまでの研究において,NHCの前駆体であるイミダゾリウム塩をリチウムトリエチルボロハイドライドで処理することにより,トリエチルボランで保護されたNHC化合物の合成に成功している。しかし,適応可能なアゾリウム塩(NHC前駆体)の種類が限られているなどの問題点があった。この問題点を解決するために,銀のNHC錯体を経由する合成を検討した。その結果,種々のNHC-ホウ素化合物が合成できることを見出した。この手法を,先に述べた窒素系のハイブリッド型配位子に適用し,多核錯体合成に関する検討を行っているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究実績の概要でも述べたように,NHCと他の配位部位を組み合わせたハイブリッド型配位子の合成に関して,初年度の検討課題であった窒素系多座配位子(2,2'-ビピリジンおよび1,10-フェナントロリン)を用いたハイブリッド型NHC配位子の合成に成功した。これらの配位子を用いて,窒素部位での錯形成を行うために,鉄,ニッケルおよび銅の塩化物を用いた錯体合成を検討した。その結果,塩化銅にビピリジン部位が配位し,同一分子内のイミダゾリウム部位は金属に非配位のまま存在した錯体の合成に成功した。また,β-アミノケトナト配位子をアニオン性配位子として用いたNHCハイブリッド型配位子の合成を検討し,目的とするハイブリッド型NHC配位子の前駆体合成に成功した。今後,本配位子を用いた金属錯体合成を行う予定である。 NHCは湿気や酸素に対して高い反応性を有していることから,安定に取り扱うことが可能なNHC等価体の開発は,錯体合成のみならず触媒的な応用の観点からも重要な課題である。申請者らの研究グループではすでに,トリエチルボランがNHCに対して有効な保護基となることを見出している。しかし,研究実績の概要でも述べたように,適用範囲が狭いという問題点が残されたままであった。そこで,銀のNHC錯体とホウ素化合物との反応を行うことにより,種々のNHC-ホウ素化合物の合成に成功した。保護基としてホウ素化合物以外の13族元素化合物を検討するため,有機アルミニウム化合物との反応を検討した。その結果,複雑な生成物を与えることがわかった。この検討から,NHCに対してホウ素化合物は優れた保護基として機能するものと考えられる。 NHCの配位制御を実現するための基礎的な知見は得られたと考えている。今後,目的の達成に向けて更なる検討を行う。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究において,NHCと他の配位部位を組み合わせたハイブリッド型配位子の合成およびその金属錯体の合成に成功した。合成に成功した錯体では,NHC部位はその前駆体であるイミダゾリウム塩の状態を保っている。そこで,これらの錯体を用いて,NHC部位がホウ素で保護された錯体合成を行い,NHC部位での脱保護に伴うNHCの配位挙動に関する検討を行う。一般に,NHCは他の配位子に比べ,金属に対する配位能が高いことが知られている。本検討では特に,脱保護により生成するNHCの配位挙動に関する考察,すなわちすでに配位している配位子とNHCの交換反応が進行するか否かについて,その仔細を明らかにする。さらにアニオン性配位子とのハイブリッド型NHC配位子を用いた金属錯体合成を行い,アニオン性配位部位と中性配位部位の相違による錯体の安定性やNHCの配位挙動に関する検討についても行う予定である。 次に,NHCの脱保護を利用した段階的な金属フラグメントの導入を検討し,多核錯体合成を行う。これらの研究に加え,NHCと他の配位部位のすべてが一つの金属に配位した単核錯体の合成を検討し,ハイブリッド型配位子に基づく特異な反応場の開発についても検討を行う予定である。 合成に成功した錯体の素反応を検討し触媒反応への展開を検討する。まず,合成した錯体の素反応を検討するために,アルケンやアルキン,さらにヘテロ原子を含む不飽和化合物(アルデヒドやケトン,イミンなど)との反応性を検討すると共に,小分子(水素や酸素など)との反応性に関する検討を行う。本検討を通じて,それぞれの金属の特長を活かした基質の活性化を明らかにしていく予定である。
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