2014 Fiscal Year Research-status Report
NHCカルベンの配位制御による多核錯体反応場とハイブリッド型分子触媒の創製研究
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25410063
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
山口 佳隆 横浜国立大学, 工学研究院, 准教授 (80313477)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 金属錯体 / 含窒素環状カルベン / カルベン-ホウ素化合物 / NHC銀錯体 / 配位制御 / ハイブリッド型NHC配位子 / 多核錯体反応場 |
Outline of Annual Research Achievements |
含窒素環状カルベン(以下,NHCと省略)は遷移金属錯体における配位子のみならず有機触媒としても機能する。遊離(非配位)のNHCは湿気や酸素に対して非常に不安定な化合物であるが,金属に配位することにより安定な錯体を形成する。これはNHCの高い配位能を反映した結果であるが,NHCの配位を制御することができれば,新しい分子触媒の開発が可能となる。本研究では,有機化学における『保護・脱保護』の手法をNHCに適用することにより,NHCの配位制御に関する詳細な検討を行った。 NHC前駆体である種々のアゾリウム塩に対し,酸化銀で処理することにより得られるNHC銀錯体とホウ素化合物の反応を検討した。その結果,ボランおよびトリエチルボランが付加したNHC化合物が効率よく合成できることを明らかにした。三フッ化ホウ素との反応では定量的にアゾリウム塩が得られた。NHC-トリエチルボラン化合物と塩化銀の反応からNHC銀錯体が得られることを明らかにした。以上の結果から,アゾリウム塩,ホウ素付加体ならびに銀錯体の三種類の化合物における相互変換が可能となった。本手法を用いて,これまで困難とされてきたNHCを含む多座配位子を用いた段階的な配位による多核錯体の合成に成功した。 有機触媒部位と金属錯体触媒部位を同一分子内に有する分子触媒の構築を行うため,2,2’-ビピリジンや1,10-フェナントロリンにメチレン鎖を介してイミダゾール部位が結合した配位子を合成し,その金属錯体合成を検討した。その結果,遊離のイミダゾール部位を有するビピリジン錯体の合成に成功した。 キラルな架橋部位を有する2座NHC配位子を有する金属錯体を用いた不斉触媒反応に関する検討を行った。その結果,これまで2座NHC配位子を有する金属錯体では困難とされてきたアリル位アルキル化反応において効率的な触媒として機能することを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
NHCと付加物を形成するホウ素化合物において,トリエチルボランはNHCに対する保護基として優れた特性を示す。しかし,本化合物の合成のみならず,錯体合成における問題点が未解決のままであった。平成26年度の研究により,NHC銀錯体からNHC-ホウ素化合物への効率的な変換方法を確立したこと,さらに穏和な条件でNHC銀錯体からアゾリウム塩に変換できることを明らかにすることができた。これら3つの化合物における相互変換を達成することができたことから,本手法を組み合わせることにより,NHC錯体合成におけるテーラーメイドな合成法を提供できるものと考えている。 金属錯体における汎用的な配位子であるビピリジンやフェナントロリンとアゾリウム塩を組み合わせた配位子を用いて金属錯体の合成を行った。得られた錯体の構造解析等の検討から,NHC部位が金属に対して非常に近接した位置に存在することからNHCが金属に対して容易に配位する可能性が示唆された。錯体分子内に遊離のNHC部位を有機触媒として利用するには,配位子の設計を含め更なる検討が必要であると考えられる。 ハイブリッド型NHC配位子を用いた触媒反応への応用に関する知見を得るため,キラルな2座NHC配位子を用いた不斉アリル位アルキル化反応に関する詳細な検討を行った。得られた結果の考察から,NHCの種類や置換基の立体的な影響,さらに配位子骨格と金属との相互作用など触媒設計における重要な知見を得ることができた。 これまでの研究によりNHCの配位制御に関する基礎的な知見は得られたものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究でNHCが係わる3種の化合物の間で相互変換が可能であることを明らかにすることができ,この相互変換を利用することにより,NHCの配位をコントロールすることができるものと期待できる。その一方で,遊離のNHCを同一分子内に有する金属錯体の合成検討から,近接するNHCが金属に配位すること,あるいはすでに配位している配位子とNHCの交換反応が進行することなどが懸念された。遊離のNHCを有機触媒として用い,同一分子内の存在する金属触媒との協同効果による異なる基質の同時活性化とそれに伴う効率的な分子変換反応を達成するめたには,上述の懸念事項への対応が必要である。そこで,アニオン性配位子を用いたハイブリッド型NHC配位子を用いることにより,金属フラグメントにおける非NHC配位子の配位力の向上と配位座の制限を検討することにより問題解決を図る。 既に合成に成功したハイブリッド型NHC配位子を有する金属錯体を用いて,種々の有機基質との反応に関する検討を行う。NHCの高い求核性による基質の活性化を達成するため,ヘテロ原子を含む不飽和化合物(特にアルデヒドやケトン,イミンなど)や,二酸化炭素のとの反応を検討する。さらに,金属上での還元剤の活性化を検討するため,有機ケイ素化合物や水素との反応性についても検討する。 NHCの保護・脱保護を利用した段階的な金属フラグメントの導入による多核錯体合成とNHCを同一金属上に導入した単核錯体の合成を検討し,ハイブリッド型配位子に基づく特異な反応場の開発についても検討を行う。 さらに,キラルな2座NHC配位子を用いて二つのNHCが非等価な環境,すなわち,異なる金属フラグメントに配位した二核錯体の合成や一方のNHCのみが配位した錯体合成を検討し,立体選択的な基質変換反応に関する検討についても実施する予定である。
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