2014 Fiscal Year Research-status Report
核酸塩基アニオンを構築素子とする多核金属錯体の合成とその構造および機能の制御
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25410070
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
鈴木 孝義 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (80249953)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 核酸塩基 / 分子機能 / 環状多核錯体 / 擬ヌクレオチド錯体 / 錯体複合体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、核酸塩基に由来する高選択的な分子またはイオン認識能と、金属フラグメントが有する発光および磁気特性、多段階酸化還元能や触媒活性などを組み合わせた多重機能性物質の開発を目指し、核酸塩基から誘導される陰イオンを含む新規な金属錯体を設計・合成し、その特異な分子および結晶構造と物理的および化学的性質を解明することを目的としている。 本年度は、チミナトイオンが架橋した環状ロジウム四核錯体の生成機構、結晶および溶存構造、磁気的および電気化学的特性の解明を中心に研究を行った。この四核錯体の生成には、特定の範囲のイオン半径を持つ金属イオンがテンプレートとなる必要があること、その金属イオンの電荷によりチミナト配位子の架橋様式が制御されることを明らかにした。このテンプレート金属イオンを含むロジウム四核構造が溶液中でも安定に保持されることも確認した。また、チミナトの非対称型架橋配位により生じるロジウム中心の不斉がホモキラルに集合することから、環状四核錯体がカリックスアレーン型の構造を有し、対イオンと溶媒分子が親水性および疎水性部位からテンプレート金属イオンに特徴的な配位を形成することも解明できた。さらに、磁気および電気化学測定により、テンプレート金属イオンに由来する磁気特性と環状ロジウム錯体骨格による酸化還元特性も明らかにした。このうち、酸化還元測定では可逆的な1電子または2電子過程を示さなかったため、当初予定していた還元種の単離を行うことはできなかった。 一方、核酸塩基アニオンを含む擬ヌクレオシド錯体の創製に関する研究では、新しい補助配位子を含む錯体の開拓を行った。ペンタメチルシクロペンタジエニル(Cp*)基にピリジンをペンダント基として組み込んだ配位子やビス(フェニルピリジン)を共存配位子とする錯体フラグメントを新たに合成し、種々の核酸塩基との反応により新たな核酸塩基錯体を合成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画で平成26年度までに実施予定としていた標的化合物の大部分を合成し、その分子構造および結晶構造の帰属、磁気的および電気化学的・分光学的性質の解明をすることができた。特に、一連のテンプレート金属イオンを含む環状ロジウム四核錯体については、その生成反応と結晶構造および溶存構造をまとめて、国際的評価の高い学術雑誌に発表した。一方、電気化学的手法により環状骨格内に不対スピンを有する多核錯体の合成を計画していたが、この化合物の電気化学測定および予備的な電解還元実験により、単離可能な還元種が得られないことがわかった。そのため、合成戦略を再考し骨格金属イオンの種類を代えることで目的とする不対スピン含有環状多核錯体を設計し、その合成実験に取り組んでいる。 また、核酸塩基配位子を鍵とする機能性金属錯体複合体の構築に関しては、その新たな構築素子として、共存配位子を置換した擬ヌクレオチド錯体の合成に着手している。既にいくつかの新規核酸塩基錯体の単離・構造解析に成功していることから、研究は順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
特定の分子機能を有する核酸塩基架橋環状多核錯体を構築するため、これまでに合成してきたテンプレート金属/ロジウム四核錯体に加え、不対d電子を有する遷移金属イオンをテンプレートとして用いた多核錯体や、環状骨格にロジウム以外のへテロ金属を段階的に組み込んだ多核錯体の構築を行い、不対電子スピンと異種金属核のsynergistic相互作用による新たな機能性の開拓を行う。また、核酸塩基間の水素結合を活用した金属錯体複合体の構築に関しては、共存配位子に対して架橋配位に適切な分子設計を施し、相補的な核酸塩基を単一分子中に組み込んだ二核錯体構築素子の開発に取り組む。この構築素子は外場に応答して、水素結合相互作用による自己集合(多核化)と解裂(分解)することが可能であり、さらに形成される内部空間に別のゲスト分子を取込むことも可能である。これらの利点によりこの種の化合物は本研究の最終目的物質のひとつともいえる。そのため、これらの合成と基本物性の解明に取り組む。 今年度は3年間の研究計画期間の最終年度であり、これまでの研究結果をまとめて国際会議・国際研究集会や学術雑誌で発表するとともに、核酸塩基錯体の機能性物質としての今後の更なる可能性を考察する。
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Causes of Carryover |
本年度は物品費を節約できたため、少額の次年度繰越金が生じた。特に、消耗品費については、申請者が現在実施している別の研究課題と共通に使用する金属試薬、配位子合成用有機試薬、測定用重水素化溶媒などを有効利用するため、その一部を本年度は別研究課題に対する予算で購入し使用した。また、当初は今年度に購入予定であった電気化学アナライザーは、本装置を共通使用する別研究課題の追加予算配置により前年度に購入できたため、その分を共通使用する関連消耗品の購入に充てた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に繰り越した経費は、本年度末未購入分の消耗品費および追加の測定機器使用料に使用する。特に、元素分析やX線結晶構造解析、質量分析のための装置使用料が、当初の予定よりも多額に必要であることが判明したため、この使用料増額分に繰越金を使用する。また、研究成果の発表のための国際会議への出席旅費と、論文の投稿料およびオープンアクセス費用にも使用する。
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