2013 Fiscal Year Research-status Report
pH応答性に基づいた腫瘍内でのみ光化学活性を示す光増感型がん治療薬の創製
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25410083
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
堀内 宏明 群馬大学, 理工学研究科, 准教授 (00334136)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
奥津 哲夫 群馬大学, 理工学研究科, 教授 (20261860)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 光線力学療法 / 光増感剤 / ON/OFF制御 / pH応答性 / 一重項酸素 |
Research Abstract |
本研究課題の目的は、我々がこれまでに開発してきた高効率シリル型光増感剤に芳香族アミンユニットを導入し、低pHでのみ光化学活性(一重項酸素の光増感効率)を発現する光増感剤を開発することである。 pH応答性の原理は、まず中性条件では光増感剤であるポルフィリン骨格が励起されると、隣接する芳香族アミンからの電子移動消光により一重項酸素を生成しないOFFの状態を取ることに基づく。また酸性条件にするとアミノ基がプロトン化し、電子移動消光が抑制され、一重項酸素を生成するONの状態に変化する。まずは量子化学計算によってこの様な分子を設計した。その結果、2,6-ジメチル-4-ジメチルフェニル基をテトラフェニルポルフィリン誘導体に導入すれば上記の性質を発現することがわかった。そこでこの分子の合成を行った。 次に合成した光増感剤のpH応答性の評価を行った。pH応答性は励起一重項状態からの電子移動消光に基づくため、まずは蛍光測定によってpH応答性を評価した。中性条件では蛍光は非常に微弱であったが、酸の添加によって蛍光強度が回復することが確認できた。また蛍光寿命測定を行った結果、中性条件では0.5 ns以下の寿命であるのに対し、酸性条件では通常のポルフィリン誘導体と同様、寿命は11 nsであり、中性条件において電子移動消光が起きていたことが確認された。 最後に一重項酸素の生成のON/OFF制御について評価を行った。一重項酸素の近赤外リン光測定によって生成効率を評価した結果、中性条件では一重項酸素の生成効率が非常に低かったが、酸性条件では生成効率が向上した。また中性条件と酸性条件における生成効率の比はおよそ25倍であり、高いpH応答性の付与に成功したといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の本年度の計画はpH応答性光増感剤を開発するために、分子設計、合成、pHによるON/OFF制御機能の評価を予定していた。 これに対して、分子設計においては、量子化学計算に基づき、pH応答性を付与するための最低条件を明らかに出来た。また、次の合成についても、量子化学計算の結果に基づき、第1段階として、合成可能な分子の選定を行い、合成・単離に成功した。さらに、合成した化合物の光化学的な評価を行い、pH応答性が付与できたことを実験的に証明した。 以上の通り、当初予定していた計画を全て完了できたため、概ね順調に進展したと考えた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、以下の項目について研究を進める。 1.水溶性の付与:pH応答性光増感剤には生体内環境でON/OFF制御する必要があり、そのためにはpKaを最適化する必要がある。そこで、まずは今年度開発したpH応答性光増感剤に親水性置換基を導入し、水溶性を付与する。その上でpKaを評価する。さらに、アミノ基上の置換基をモディファイすることにより、最適なpKaを有するpH応答性光増感剤の開発を行う。 2.生細胞を用いた評価:pH応答性光増感剤を培養がん細胞に投与し、pH応答性光増感剤による光細胞死が制御できるかどうかを検討する。まずは腫瘍組織内が酸性であることに基づくpH応答性の評価である。腫瘍組織内では組織液が弱酸性であるため、光増感剤は正常組織内ではOFF状態であるのに対し、腫瘍組織内ではON状態となることを想定している。これを実証するために、培養細胞を用いて、培地のpHに応じて光増感剤のON/OFF状態が変化することを実証する。次にリソソーム内が酸性であることに基づくpH応答性の評価を行う。細胞内オルガネラであるリソソーム内は およそpH5の環境であることが知られている。trastuzumabはがん細胞表面に特異的に多く存在するレセプターHER2に結合するとエンドサイトーシスによりリソソーム内に取り込まれることが報告されている。東京大学の浦野教授らはこの性質を利用して、pH応答性蛍光プローブと組み合わせ、がん細胞のみを光らせることに成功している。本申請課題ではこれと同様な戦略に従い、pH応答性光増感剤をtrastuzumabに連結し、がん細胞内のリソソームに集積させ、活性をON状態にすることを目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
繰越が生じた理由は2つある。 一つは量子化学計算によって設計した分子の合成が想定よりもスムーズに進行し、更に期待通りの性能を有していた事である。当初は合成により多くの手間と費用が必要であると想定していたが、上記の理由により想定していたよりも少ない予算で計画を達成できた。もう一つの理由は、研究を遂行する上で新たな装置が必要であることが判明し、繰り越した予算と次年度の予算を合わせて購入する計画に変更した。装置は超音波ホモジナイザーで、試料の分散化に不可欠であることが判明した。 今年度繰り越した予算は上記の理由により、次年度の予算を合わせて備品である超音波ホモジナイザーを購入するために使用する。超音波ホモジナイザーの見積もり価格はおよそ67万円である。予算的には今年度でも購入できる金額であったが、現在印刷中の論文の費用の支払いタイミングが確定しなかったこと、また今年度は備品の申請を行っていなかったことにより次年度購入することにした。
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Research Products
(8 results)