2014 Fiscal Year Research-status Report
ずれ応力による固相フォトクロミズムの波長チューニング法の開拓
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25410101
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Research Institution | Tokyo University of Science, Yamaguchi |
Principal Investigator |
井口 眞 山口東京理科大学, 工学部, 教授 (80291821)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ずれ応力 / 剪断応力 / フォトクロミズム / ラマンスペクトル / 高圧実験 / スピロピラン / ジアリールエテン / アゾベンゼン |
Outline of Annual Research Achievements |
固相フォトクロミズム(PC)の誘起光を応力によって調節する”波長チューニング法”を開拓することを主目的として、各種PC分子に対する応力と光の複合的効果を調べた。 1. ジアリールエテンDEのPCは、閉環体と開環体間の光異性化による色の変化である。この光異性化は常圧において紫外光によって誘起されるが、ずれ応力下のCMTEは可視光によって色変化を起こすことを前年度までに見出した。本年度はこのPCの波長依存性を調べた。その結果、CMTEのPCは、強いずれ応力によって通常の紫外光によるPCが抑制された状態において、500 nmの特定波長の光を照射することによって誘起できることが明らかとなった。(Chem. Lett. in press.) 2. カチオン性ピリドスピロピラン(PSP)を粘土鉱物に包接させた膜状試料の応力下における色変化と光学スペクトルを観測した。応力下においてPSP 結晶は黄色から緑色へ、粘土層間PSP は黄色から赤色へと変化したが、減圧後はいずれも赤紫色に変化した。この変化は、応力によってPSPはメロシアニン(閉環体)への異性化を起し、その変換は粘土層間の方がPSP結晶よりも容易であることを示唆している。 3. アゾベンゼン誘導体のDN-Azo(金色光沢結晶、昨年度報告)から得られたカチオン性TN-azoを粘土層間に包接させた複合膜(TN-Azo/clay)に対する光と応力の効果を調べた。TN-Azo/clayはずれ応力を作用させることによって、黄色から赤色が強くなる変化が見られた。この複合膜の色の変化はTN-azo結晶よりも明瞭であり、ラマンスペクトルの変化も顕著であることから、ずれ応力が粘土層間のTN-Azo分子に強く作用することを示している。 粘土層間のイオン性分子は、結晶内と異なる分子周囲の空間をもち、粘土層の構造に合わせた分子形状を取ることができる。このような粘土層間場と応力を複合的に利用することで分子構造を変化させ、光応答を制御することを考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. ジアリールエテンDEのフォトクロミズムPCは常圧では紫外光で誘起されるが、ずれ応力下では紫外光によるPCは抑制され、より長波長の可視光によって色変化を起こすことをCMTEとPFCPにおいて見出している。この現象は強いずれ応力と特定波長領域の可視光によって誘起されることを本年度明らかにした。また、類似の現象を別のDEも示している。これらの現象は、研究課題である応力を利用したPCのための”波長チューニング法” に発展するものと期待できる。 2. 本研究では、フォトクロミック分子間の相互作用を包接、自己組織化、高分子化によって調節し、分子配列を制御した試料に対する光と応力効果を明らかにすることを目的としている。これまでにカチオン性スピロピランSP、アゾベンゼン誘導体の粘土鉱物やナフィオン包接体、SPを主鎖に含む高分子、SPのLB膜を合成、調製し、光と応力の複合的な効果に関する基礎的な知見を得ている。 3. SPやDEは応力下でのラマンスペクトル測定時に特徴的な蛍光を発する。この蛍光スペクトルの蛍光光度計を用いた測定を試みたが、これまでのところ明瞭なスペクトルは得られていない。 以上のように、蛍光分光測定を除き、研究はおおむね順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度に引き続き、ジアリールエテンDE、スピロピランSP、アゾベンゼンAzoなどの各種フォトクロミック化合物の応力と光の実験からフォトクロミック波長の応力依存性の有無を調べ、応力と光による開環・閉環変換やcis-trans異性化の機構を解明する。それに基づいて応力による”波長チューニング法”の可能性を検討する。 1. ジアリールエテン:応力による光異性化の波長制御の可能性のあるBFCPの結晶のフォトクロミズムの波長の応力依存性を検証し、PFCPとCMTEの共通する特性を見出す。応力によるPCの波長移動の機構を明らかにするために、応力による色・蛍光と分子構造の関係を分光測定から調べる。 2. カチオン性フォトクロミック分子の包接体:26年度のTN-Azoと類似のAzo系分子を粘土鉱物(モンモリロナイト、スメクトン)に包接させ、粘土層を介した光や応力の効果を調べ、粘土層間での分子の状態を明らかにする。さらに、粘土層間場を利用した応力の調整方法を検討する。 3.フォトクロミックSP分子の配列を制御したLB膜やSP高分子の26年度の結果を踏まえて、LB膜の調製条件の検討、高分子の延伸膜の作成などを行う。分子間の相互作用に着目しながら、光と応力の複合的な作用による色変化、蛍光の発生などの現象をスペクトル測定から調べる。 4. 応力下の分光測定:DAC型高圧セルを用いた静水圧とずれ応力下でのラマン・赤外分光測定のほかに、圧力下での蛍光分光測定を行う。SPやDEなどフォトクロミック分子の応力による異性化の過程において観察される蛍光の起源となる分子種を調べ、応力による異性化の機構に関する知見を得る。
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Causes of Carryover |
スピロピランとジアリールエテンなどの蛍光分光測定を計画していたが、既存の分光器での応力下での分光測定は容易ではなかった。そのため、分光器に合わせた蛍光分光測定用高圧セルの製作費用は次年度とした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
応力下での既存の小型高圧セルを用いた蛍光分光測定を試みて、応力下に蛍光測定に適した大きさと形状の蛍光分光測定用高圧セルの設計し、作製する。また、サファイアまたはダイアモンドのアンビルを購入する。
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Research Products
(11 results)