2014 Fiscal Year Research-status Report
超臨界水の特性を利用したボトムアップのナノ乳化手法
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25410103
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
出口 茂 独立行政法人海洋研究開発機構, 海洋生命理工学研究開発センター, 研究開発センター長 (40344296)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木下 圭剛 独立行政法人海洋研究開発機構, 海洋生命理工学研究開発センター, ポストドクトラル研究員 (20710073)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | コロイド・量子ドット / エマルション |
Outline of Annual Research Achievements |
MAGIQ乳化は、超臨界水と炭化水素の均一溶液を急冷し、相分離によって炭化水素を極微細な油滴として析出させるという、ボトムアップの原理に基づく全く新しい乳化手法である。平成25年度までに様々な体積分率のドデカンを、乳化剤に非イオン性界面活性剤であるBrij 97を用いて、10秒以内という短時間で水にナノ乳化できることを明らかにした。 トップダウンの乳化では、乳化剤には1.油水界面の界面張力を低下させ粗大油滴の微細化を促進する、2.油滴を安定化する、という2つの役割がある。一方、油滴形成が相分離によって進行するボトムアップのMAGIQでは、乳化剤の役割は後者のみである。トップダウンとボトムダウンの乳化における乳化剤の役割の差をより明確にするために、MAGIQと平成25年度に新たに導入した高圧ホモジナイザーによって、Brij 97、Brij 98、Tween 20、Tween 80の4種の乳化剤を用いて1体積%のドデカンをナノ乳化した。トップダウン乳化では、乳化剤の種類によらず直径120 nm程度のナノ油滴が得られたのに対し、MAGIQで得られた油滴の大きさは、用いる乳化剤の種類に強く依存して60 nmから180 nmの間で変化した。MAGIQで得られた油滴のサイズと乳化剤のHLBとの間に相関関係が存在し、乳化剤のHLBが小さい(疎水性が高い)ほど生成する油滴のサイズは小さかった。相分離直後に生成した油滴の表面に、乳化剤分子が吸着して強く示唆する結果である。またヘキサデカンのナノエマルションを、ヘキサデカンの融点(18℃)以下で保存した際に、異方性を持って結晶成長が進行する新奇な現象を発見した。 これらの基礎的研究と並行して、産業界への技術の普及を目的に、民間企業と共同でMAGIQ装置の市販に向けたプロトタイプ開発を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、1)MAGIQ乳化手法の確立、2)MAGIQ乳化の応用の2つである。1)に関しては、乳化剤の役割という観点で、従来の「トップダウン」の乳化手法と比べた新手法の特長が明らかになり、現在論文投稿の準備を進めている。さらにヘキサデカンのナノエマルションにおいて、異方性を持った結晶成長という予想外の発見があった。2)に関しては、MAGIQ装置の市販に向けたプロトタイプ開発が予想をはるかに越えた進捗状況であり、2016年1月に東京ビッグサイトで開催される第15回 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議において、実機を展示すべく開発を進めている。これらを総合すると、研究は当初の計画以上に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
トップダウンとボトムダウンの乳化で、乳化剤の役割に大きな違いがあることが明らかになった。現在、結果をまとめた論文を投稿すべく、準備を進めている。 平成26年度に新たに発見した、ヘキサデカンの異方性を持った結晶成長に関しては、光学顕微鏡観察で針状あるいは板状の結晶が生成していることを確認している。ヘキサデカンの融点以下で起こる現状であることから、油滴サイズが小さい時にヘキサデカンの過冷却が起こるものと考えられる。事実これまでの検討結果では、異方性を持った結晶成長は油滴サイズが200 nmより小さい時にのみ見られている。またヘキサデカンとBrij 97の比率も重要な要因であることを示唆する結果も得ている。今後、放射光施設を用いたX線散乱実験、さらにはオクタデカンなど他の高融点炭化水素を用いた実験などによって、異方性結晶の内部構造、さらには異方性結晶成長を生み出す分子メカニズムの解明を行う予定である。 国際化粧品開発展、国際ナノテクノロジー総合展・技術会議のアウトリーチの場を利用して、民間企業複数社と話し合いを持ったところ、MAGIQ装置の市販を求める意見が多数寄せられた。そこでMAGIQの産業界への普及を目指して、平成26年度に民間企業と装置の共同開発を開始し、すでにプロトタイプ装置が完成した。平成27年度は本装置の性能評価を行うとともに、その結果をフィードバックした改良を行い、平成28年1月を目処に市販に向けたMAGIQ装置を完成させる予定である。
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