2015 Fiscal Year Research-status Report
カチオン性有機分子のヒドリド受容能を利用する水素分子の反応開発
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25410108
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
清野 秀岳 秋田大学, 教育文化学部, 准教授 (50292751)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 水素 / カチオン性複素環 / 錯体触媒 / 有機ヒドリド供与体 / ヒドロゲナーゼ / メタン生成 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.生物的C1変換のモデル反応:補酵素H4MPTはメタン生成経路で利用されるC1キャリアの一つであるが,これと類似の構造を持つテトラヒドロ葉酸もまたC1ユニット供与体としてはたらいている。これらの間の構造的違いは主に,テトラヒドロ葉酸ではN-フェニル基のパラ位に電子求引性置換基があることであり,結果としてこの誘導体の方がより還元されやすいことが知られている。そこで,電子的効果の異なる置換基を導入したモデル化合物を合成し,それらから誘導されたイミダゾリニウム化合物を錯体触媒を用いて水素化したところ,電子求引性置換基では転化速度が上がることが確認された。また,上記2種の生体分子と類似する六員環と縮合したイミダゾリニウム化合物に対し,縮合環構造のないイミダゾリニウム基質は水素化が遅いことも見いだした。 2.N,N'-ジフェニルイミダゾリニウムの二段階水素化:本基質はプロトン受容体と組み合わせることによりヒドリド受容体として作用し,可逆的な水素の吸蔵・放出を可能とする。この反応ではIrジアミド錯体が有効な触媒であるが,水素吸蔵反応においてはるかに高活性なRhジチオラート錯体は放出反応の効率がきわめて劣っている。後者の触媒作用について詳細に検討したところ,イミダゾリニウムの1段還元体であるイミダゾリジンをさらに水素化して鎖状ジアミンに変換することが判明した。本反応はプロトン供与体存在下において加速されるため,イミダゾリジンから引き抜かれたヒドリドとプロトンから水素を生成するよりはむしろ,別のイミダゾリジンにヒドリドが移行して鎖状ジアミンを生成する不均化が進行したものと考えられる。 3.新規ヒドリド移行触媒:これまでの研究では貴金属触媒を土台としてきたが,現実の生体系で用いられているような第一周期遷移金属の利用を目的として,多座配位子で保持された鉄,コバルト,ニッケルのヒドリド錯体を新規に合成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度当初の計画では実施項目として,「水素貯蔵材料としての評価」,「生物的CO2還元モデルの構築」,「カチオン性複素環部位を構造単位とするポリマーの合成」,「新規水素化触媒」の4点を挙げていた。第一の項目については,特に水素発生条件での触媒の作用機構の違いについて解明し,水素生成量低下の原因となる副反応を抑制するという開発方針が明らかとなった。一方で,この副反応はイミダゾリジン環の水素化開環であるため,C1ユニットの還元という観点では,第二の項目における有用な素反応である。これまでN,N'-ジアリールイミダゾリジンの水素化は困難であったが,反応条件によっては比較的温和な条件で進行することが判明したため,最適化の検討を行ってきた。これらの結果は複数の論文として発表する予定であり,先行する論文のデータを確実にするため時間を要した。第三の項目については進展がなかったが,第四の項目については貴金属を用いない新規錯体を合成し,その触媒活性の検討が進行中である。以上のように当初の研究計画よりも時間がかかっているが,過半数の項目については成果があり,論文発表の目処がおおよそ付いたと言える。今後は延長期間内で,論文を完成させるためのデータ追加と検証を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
延長期間内において,以下の内容についての研究を完結させる。 1.N,N'-二置換イミダゾリニウムの可逆的水素化:本基質に水素ガスおよび塩基を作用させることにより,ヒドリドが付加してイミダゾリジンが生成する。この反応では水素分子を不均一に活性化する錯体触媒が有効であり,常温常圧で効率的に進行する。また,可逆反応であるため,反応率は塩基の強さに依存して脂肪族アミンと芳香族アミンで劇的に異なるとともに,イミダゾリジンに芳香族アミンの共役酸を作用させると水素を放出する。以上からイミダゾリニウムをヒドリド受容体として利用し,プロトン受容体との組み合わせによって,水素を可逆的に吸蔵・放出できる。 2.生物的メタン生成経路モデル:メタン生成系でC1キャリアとしてはたらく補酵素H4MPTと類似構造を持つ化合物を合成し,C1ユニット水素化のモデル反応を行った。ホルミルからメチルまでの還元が温和な条件下で進行することを示し,置換基の電子的効果を検討することにより類縁の補酵素テトラヒドロ葉酸の反応性と関連づけた。生成物のN-メチル基の転移反応について検討を続ける。 3.新規ヒドリド錯体:本研究の過程で新規に合成された,第一周期遷移金属と多座配位子からなるヒドリド錯体について,構造と反応性を明らかにする。
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Causes of Carryover |
研究成果をとりまとめた複数の論文を現時点で作成中である。主要な実験の大部分は完了しているものの、データの追加と検証のための実験をさらに行う必要があり、投稿後の論文の修正に備える必要性もある。論文の投稿が次年度に持ち越しとなったため、追加実験用の試薬や消耗品の購入、校閲などの論文投稿にかかる経費として、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本事業の成果をまとめた投稿論文を作成するための、追加実験用の試薬や消耗品の購入、校閲などの論文投稿にかかる経費として使用する。
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Research Products
(3 results)