2013 Fiscal Year Research-status Report
レーザー捕捉・顕微分光法の降雨発生機構解明への応用
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25410144
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
石坂 昌司 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (80311520)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | エアロゾル / レーザー捕捉 / ラマン分光 |
Research Abstract |
マイクロメートルサイズのエアロゾル水滴は、自然界における雲粒のモデル反応系として大変重要である。本研究では、レーザー捕捉法を用いて「大気上空で起こる雲の発生ならびに降雨(降雪)に関わる微小水滴の様々な相転移を光学顕微鏡下において人工的に再現」するとともに、これを単一微小水滴レベルで計測可能な実験手法を確立し、雲粒の発生や成長に関する物理・化学過程の詳細、ならびに降雨の初期過程である過冷却微小水滴の凍結メカニズムを明らかにすることを目的とする。 雲中の水滴には、海水由来の塩化ナトリウムや火山ガス由来の硫酸アンモニウムなどの様々な溶質が溶解しており、これらの溶質は降雨発生の引き金となる水滴の凝固点に大きな影響を与える。気相中に存在する微小水滴は、取り巻く空気の湿度を鋭敏に反映し、速やかに蒸発または凝縮するため、水滴に含まれる溶質濃度は、発生に用いた母液の濃度と必ずしも一致しない。したがって、エアロゾル水滴の物理化学的性状の本質を理解するためには、温度と湿度の制御下で、水滴個々にその化学組成を計測することが必要不可欠である。平成25年度は、自然界の雲中に含まれる代表的な無機化合物の一つである硫酸アンモニウムに着目し、エアロゾル水滴に含まれる硫酸アンモニウムを水滴個々に定量する手法を確立した。超音波式ネブライザーを用いて、硫酸アンモニウムを含む微小水滴群を、湿度を一定に保ったチャンバー内に噴霧し、ミクロな水滴一粒を気相中においてレーザー捕捉した。水滴のラマンスペクトルから見積もったエアロゾル水滴個々の硫酸アンモニウム濃度は、発生に用いた母液濃度に依存せず、ほぼ一定になることを初めて実験的に示すことに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「気相中における光誘起微小水滴発生機構の解明」に関しては、相対湿度を制御した反応チャンバー内に紫外光を照射し、湿潤空気から微小水滴群を発生させ、その一粒を気相中においてレーザー捕捉し、そのラマンスペクトルを計測することに成功した。光誘起微小水滴には純水には観測されない特徴的なラマン散乱ピークが観測されることを見出した。但し、ラマン散乱強度が小いために、溶質の特定には至っていない。今後、更なる高感度検出へ向けて装置の改良を計画している。 「水滴凝結成長過程における適応係数の解明」に関しては、倒立型光学顕微鏡のステージ上に設置したチャンバー内に532 nmと1064 nmのレーザー光を対物レンズで集光し、硫酸アンモニウムを含む単一微小水滴を気相中に非接触で捕捉するとともに、赤外レーザー光(1064 nm)のON/OFFに伴う、水滴直径の可逆な変化を観測することに成功した。赤外レーザーの照射を止めてから水滴が元の平衡直径へと回復する過程を速度論的に解析し、水分子(水蒸気)の水滴への適応係数は1に近い値であることが示唆された。現在、チャンバー内の湿度を変化させながら同様の測定を行い、解析の妥当性を検証中である。 「過冷却微小水滴の凝固温度の溶質濃度・水滴サイズ依存性の解明」に関しては、レーザー捕捉法を用いて気相中に過冷却水滴を非接触で保持し、その凝固を誘起することに成功した。統計的な議論を行う為、過冷却水滴の凝固温度の硫酸アンモニウム濃度依存性に関する実験データーを蓄積中である。
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Strategy for Future Research Activity |
レーザー捕捉法を用いて、微小水滴を空気中に浮遊させる為には、水滴に働く重力と光の放射圧のバランスを取るが必要である。現在のレーザー捕捉・顕微分光システムは、レーザー捕捉光がラマン励起光源の役割も兼ねているため、捕捉する水滴直径が小さくなると、それに応じて照射するレーザー光強度も減少させる必要がある。そのため、直径が2マイクロメートル程度の水滴では、高感度なラマンスペクトル測定が困難となる技術的問題に直面した。更なるエアロゾル水滴の高感度ラマンスペクトル検出へ向けて実験装置の改良を計画している。具体的には、レーザー捕捉光源のビーム形状の変更と、レーザー光源の追加を行う予定である。改良型のレーザー捕捉顕微分光システムを駆使して、雲粒の発生や成長に関する物理・化学過程の詳細、ならびに降雨の初期過程である過冷却微小水滴の凍結メカニズムの解明に向けて研究を展開する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
初年度は、レーザー捕捉顕微分光の実験条件の最適化と装置改良のための指針を慎重に検討した。エアロゾル水滴系に適応可能なプローブ分子の探索や、最適な励起波長の検討に時間を要したため、光学部品類の購入が次年度以降に持ち越されたためである。 初年度に得られた指針に基づき、レーザー捕捉光源を追加するとともに、ミラーやレンズ等を購入し、エアロゾル水滴の高感度ラマンスペクトル検出へ向けて実験装置の改良を計画している。
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