2014 Fiscal Year Research-status Report
レーザー捕捉・顕微分光法の降雨発生機構解明への応用
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25410144
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
石坂 昌司 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (80311520)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | エアロゾル / レーザー捕捉 / ラマン分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
マイクロメートルサイズのエアロゾル水滴は、自然界における雲粒のモデル反応系として大変重要である。本研究では、レーザー捕捉法を用いて「大気上空で起こる雲の発生ならびに降雨(降雪)に関わる微小水滴の様々な相転移を光学顕微鏡下において人工的に再現」するとともに、これを単一微小水滴レベルで計測可能な実験手法を確立し、雲粒の発生や成長に関する物理・化学過程の詳細、ならびに降雨の初期過程である過冷却微小水滴の凍結メカニズムを明らかにすることを目的とする。 気相中に存在する微小水滴に含まれる溶質の濃度は、発生に用いた母液濃度に依存せず、水滴の水蒸気圧と取り巻く気相中の水蒸気分圧との釣り合いによって決まる。したがって、エアロゾル水滴の相転移の溶質濃度依存性を計測するためには、気相の湿度を変化させて、単一微小水滴の蒸発と凝縮を自在に制御する技術が必要不可欠である。平成26年度は、相対湿度を10~100%の範囲で任意に制御可能なエアロゾル水滴のレーザー捕捉・顕微分光システムを構築した。マスフローコントローラーを用いて湿潤空気と乾燥空気を混合し反応チャンバー内に導入することにより、硫酸アンモニウムを含む単一微小水滴を気相中に非接触で浮遊させたまま、その溶質濃度を可逆に変化させることに成功した。また、レーザー捕捉した水滴のラマンスペクトルから、水滴の平衡サイズと硫酸アンモニウム濃度を見積もり、水滴の蒸発と凝縮に伴い水滴平衡サイズが変化しても、水滴中に含まれる硫酸アンモニウムの物質量は常に一定であることを初めて実験的に示すことに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究項目1:「気相中における光誘起微小水滴発生機構の解明」に関しては、相対湿度を制御した反応チャンバー内に紫外光を照射し、湿潤空気から微小水滴群を発生させ、その一粒を気相中においてレーザー捕捉し、そのラマンスペクトルを計測することに成功した。また、イオンクロマトグラフィーによる光化学反応生成物の分析も行った。光誘起微小水滴発生機構に関する論文発表に向け準備中である。 研究項目2:「水滴凝結成長過程における適応係数の解明」に関しては、倒立型光学顕微鏡のステージ上に設置したチャンバー内に532 nmと1064 nmのレーザー光を対物レンズで集光し、硫酸アンモニウムを含む単一微小水滴を気相中に非接触で捕捉するとともに、赤外レーザー光(1064 nm)のON/OFFに伴う、水滴直径の可逆な変化を観測することに成功した。赤外レーザーの照射を止めてから水滴が元の平衡直径へと回復する過程を速度論的に解析し、水分子(水蒸気)の水滴への適応係数(α)を見積もったところ、αは1に近い値であることが示唆された。 研究項目3:「過冷却微小水滴の凝固温度の溶質濃度・水滴サイズ依存性の解明」に関しては、レーザー捕捉法を用いて気相中に過冷却水滴を非接触で保持し、その凝固を誘起することに成功した。実験の再現性と凝固温度の確度を向上させる為、冷却チャンバーの改良を行った。白金抵抗体と熱電対の2つの温度センサーを用いて、チャンバー内の温度勾配を直接計測できるように改良した。
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Strategy for Future Research Activity |
大気中の水滴の関わる物理化学現象を解明するためには、温度と湿度を同時に制御可能なレーザー捕捉法の確立が必要不可欠である。特に0℃以下の温度条件での実験においては冷却チャンバー内の温度勾配を精密に制御することが大変重要である。そこで水滴の近傍に小型の温度センサーを配置し、冷却過程で生じる温度勾配を直接計測できるようにチャンバーを改良した。最終年度は、この改良型のレーザー捕捉顕微分光システムを駆使して、雲粒の発生や成長に関する物理・化学過程の詳細、ならびに降雨の初期過程である過冷却微小水滴の凍結メカニズムの解明に向けて研究を展開する。
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