2014 Fiscal Year Research-status Report
高速・無電荷ガスクラスタービームの生成とSIMSへの応用
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25410147
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
持地 広造 兵庫県立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40347521)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | クラスターイオン / 衝突 / 解離 / 質量スペクトル / 原子間ポテンシャル |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度において、アルゴン(Ar)クラスターイオン(構成原子数:1000~2000)を構成原子1個あたりの運動エネルギー(Ea)が2~10eVの条件で数種類の金属に照射した結果、Arクラスターイオンは構成原子数が2~5程度の小さいクラスターイオンに解離すること、さらに、解離度(解離イオン強度の総和に対する2量体イオン(Ar2+)の強度比)が各種金属との衝突時にクラスターが受ける衝撃応力にほぼ比例することを明らかにした。今年度は、上記のクラスターイオン衝突法による解離度の変化をどの程度の薄い金属まで検出できるのか調べるために、銅(Cu)基板の表面にグラフェン(1層)を積層させた試料について検討した。この結果、以下の知見を得た。 ①グラフェン試料にArクラスターイオンを照射し続けること(プレスパッタリング)により試料表面の吸着汚染物が除去されるとともにクラスターイオンの解離度が減少し、やがて一定の値(清浄化されたグラフェンとの衝突による値)に収束する。 ②プレスパッタリング後では、グラフェンを積層させたCu試料の解離度は積層しないCu試料の約1/5である。これはグラフェンと銅の原子間ポテンシャルが影響していること、巨視的にはグラフェンの変形によって衝突時の衝撃が緩和されていることを示している。 ③プレスパッタリング時のEaを12eVまで上げて照射するとグラフェンの炭素原子がスパッタリングによって除去されるため解離度は次第に上昇し、Cu試料の値に一致する。 以上の結果から、クラスターイオン衝突法によって金属原子1層までの力学物性を評価できる可能性が得られた。また、プレスパッタリング処理によって試料に損傷を与えることなく表面の吸着汚染層を除去できることは本法のメリットの一つである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ナノサイズのクラスターイオンを衝突させて、その解離挙動からターゲット材料の力学物性を評価するという試みはこれまでに報告がなく、本例が初めてである。本法は、ヤング率、硬度など材料強度の微小領域計測やその二次元マッピング、さらには材料作成中のin-situ計測などへの応用が期待できる。現在、グラフェンに代表される二次元材料の研究は活発化しているが、これらの材料の力学特性を評価できる実用的な方法は確立されていない。このような状況において、今年度に得られた成果の意義は大きい。
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Strategy for Future Research Activity |
本計測法の原理的可能性を明らかにするために以下の研究を推進する。 ①分子動力学法等によりアルゴンクラスターイオンと既知金属の衝突によるクラスターイオンの解離度を計算し、実験値との比較を行う。 ②プレスパッタリング後の試料表面の状態や構造(極薄酸化膜、微視的構造など)が解離度に及ぼす影響を明らかにする。
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Causes of Carryover |
研究の内容上、実験試料の購入費および旅費がほとんどであったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
実験設備の製作費、試料の購入費、および旅費に充てる予定である。
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Research Products
(2 results)