2014 Fiscal Year Research-status Report
電気化学センサーを用いる脳内グルタミン酸計測の高度化と応用
Project/Area Number |
25410149
|
Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
菅原 正雄 日本大学, 文理学部, 教授 (50002176)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 電気化学センサー / L-グルタミン酸 / 神経伝達物質 / 長期増強現象 / 海馬断片 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、マウス脳海馬の急性スライスを用いて、電気化学L-グルタミン酸センサーの信号と電気生理学的信号をreal-timeに同時に記録し、L-グルタミン酸濃度を実測することにより、神経可塑性の分子機構に関してL-グルタミン酸が果たす役割を明らかにすることを目指している。本年度は以下の点について検討した。 (1) 神経領野DGにおける容量性電流が電気生理学的刺激によって著しく高まることをインピーダンス理論およびL-グルタミン酸信号の実測によって示した。得られたセンサー信号から純にFaraday 電流のみを引き出す方法として、容量性電流が十分に減衰する460 ms後の電流をサンプリングし、ボルタモグラムを再構成することが適切なことを示した。その結果、 LTP生起後にL-グルタミン酸の放出濃度が高まることを示した。 (2) 神経領野CA1において、シナプス後膜のAMPAレセプターおよびNMDAレセプター阻害剤の共存下では、電気生理学的刺激によって誘起される容量性電流は著しく小さくなることを実験的に示した。それを基に低頻度刺激(2Hz)によって放出されるグルタミン酸濃度を阻害剤共存下で測定した。その結果、長期増強現象(LTP)が誘起された場合は、後膜の神経活動をブロックしてもL-グルタミン酸の放出が残存することを発見した。一方、LTPをAPVを用いてLTP生起をブロックした場合は、L-グルタミン酸の放出はほぼ完全に消失した。この結果は、LTPの生起に前膜からのL-グルタミン酸放出が寄与していることを示している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度においては、電気刺激がグルタミン酸センサーに与える影響について検討を進めた結果、長期増強現象を引き起こすのに必要な高頻度刺激の影響を受けずにグルタミン酸電流を計測することに成功した。それを基に長期増強現象が引き起こされる場合と起こらない場合の比較を行い、グルタミン酸濃度は前者の場合に著しく高いことを明らかにし、電気生理学分野において興奮性シナプス後電位の最大値の40%において計測を行うことの意味について、グルタミン酸の側から実験的根拠を与えた(公表済)。平成26年度は、そのアプローチを低頻度刺激(2Hz)刺激に展開し、神経領野DGにおいては前膜からのグルタミン酸放出の増加が長期増強現象の生起に関係していることをL-グルタミン酸濃度を正確に反映するFaraday 電流に基づいて示した(公表済)。この結果は、Blissらによって報告されているin vivo での結果を支持するものである。また、後膜の活性をブロックする阻害剤の共存下でL-グルタミン酸を計測することに成功し、LTPが生起する場合とそうでない場合にL-グルタミン酸の放出量が異なることを初めて示すことができた。これらの結果は前膜からのL-グルタミン酸の放出がLTPの生起に関連していることを強く示している。この成果は現在、公表の準備を進めている。
以上のように、電気化学L-グルタミン酸センサーの信号と電気生理学的信号をreal-timeに同時に記録し、グルタミン酸濃度と神経可塑性の間の関係を明らかにする本研究の目的はおおむね順調に進行していると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
後膜に存在するグルタミン酸受容体阻害剤の共存下で興奮性シナプス後電位とグルタミン酸電流の同時計測を行い、電気的刺激による長期増強現象の発現に際して、後膜の活性を止めてもシナプス前膜からのグルタミン酸放出の寄与が起こる分子機構について調べる。
|
Causes of Carryover |
グルタミン酸測定と興奮性シナプス後電位の同時測定に費やす時間がやや不足した。そのため、センサーの作成に要する費用、およびシナプス後膜の活性を阻害する実験に関する費用が少なくなった。最終年度は多くの神経阻害剤が必要なためそれらの購入に使用できる。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
神経阻害剤、酵素、電極作成用高分子メディエータなどの購入に使用する。
|