2015 Fiscal Year Research-status Report
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25410210
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Research Institution | Saitama Institute of Technology |
Principal Investigator |
木下 基 埼玉工業大学, 工学部, 准教授 (40361761)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 液晶 / 色素 / 非線形 / 光配向 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,有機デバイスの性能や機能の向上に資する『光を用いた分子配向技術』を開発する。有機材料の光配向技法は光異性化を利用する系が多いため,有機電子デバイスの材料開発の探索幅が制限されている。このため,多種・多様な材料系に適応可能な光配向技法の開発を目指して,要素技術や材料系の明確化を目的とした。これまでに配向変化が観測しやすい液晶系に着目し,光電場による分子配向変化について検討してきた。特に,色素の吸収波長領域において,分子配向変化が効率よく誘起可能なことから,光安定性が高い色素と液晶系の組合せの探索を行った。 今年度は,有機EL素子用発光材料であるクマリン系色素の中で,ベンゾチアゾール骨格構造をもつクマリン6,クマリン545およびクマリン545Tを用いて,色素の構造の違いが液晶の光配向変化挙動に及ぼす影響について詳細に検討を行った。 アルゴンイオンレーザーからの488nmの光を,色素を含む液晶系に照射したところ,クマリン6,クマリン545およびクマリン545Tのいずれの色素を含むサンプルにておいて,分子配向変化に基づく明確な干渉縞が観測された。さらに,光を照射し続けたところ,クマリン6を含むサンプルにおいては干渉縞の減少が見られないのに対して,クマリン545およびクマリン545Tを含むサンプルにおいて干渉縞が減少する挙動が観測された。詳細については検討中であるが,色素の分子構造計算を行ったところ,クマリン6と比較してクマリン545およびクマリン545Tは平面性が高いことがわかり,おそらく色素の平面性と液晶分子との相互作用の大きさの違いにより,干渉縞減少,つまり初期配向への緩和過程が確認されたと考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,光配向できる材料系を開発することが,配向手法の開発に繋がるため,材料系の探索を重要視している。これまでに,クマリン誘導体を中心としていくつかの色素が効率よく液晶の配向変化を誘起できることを明確にし,着実に成果を積み重ねてきた。本年度は,ほぼ同様な構造をもつクマリン色素を用いたところ,液晶の光配向挙動に差異が認められた。この結果は単に光配向制御に適切あるいは不適切というものでなく,光照射という刺激のON,OFFという,従来の切り替えスイッチイング特性に加えて,ある一定の時間刺激応答性が見られるという従来のスイッチング特性とは異にするものであり,新たな機能を付与できる可能性を大いに秘めている点が注目に値する成果である。秋の学会や研究発表会などにおいて外部発表を行ったところ,既存の概念にない新しい機能であると第三者から評価され,今後の応用展開に期待がもてる意見やアドバイスをいただいた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでと同様に,液晶中にドープした色素に着眼点をおいた研究を展開する。さらに,液晶の配向固定化によるフィルム化を行うために重合性モノマーを用いて,最適な配向制御が可能な材料系の探索を行う。それらの光応答挙動は,ポンプ-プローブ光学系を用いて時間分解測定を行い,色素の励起状態における電子状態の変化および液晶場との相互作用を詳細に検討する。さらに, Z-scan法や過渡回折格子法を用いて非線形光学効果あるいは微小屈折率変化の測定を行い,色素の非線形光学効果が液晶の配向変化にどのような影響を及ぼすか調べる。また,本年度実績のあった分子軌道計算による分子構造計算を行い,光配向性と分子構造との相関関係について検討する。
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Causes of Carryover |
2014年4月に東京工業大学資源化学研究所から埼玉工業大学工学部へ移動し、教育にかかる時間が増えたこと、および大規模な研究室工事を行ったことから、研究の進展が遅れていた。このため、本年度予定していた、各種偏光を用いた液晶の光応答性を次年度に行うこととした。このため次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究遂行に必須のレーザーが少しずつ、出力が弱くなっており、光源としての光量が不足した場合は、レーザーの購入を行う。また、光学系に必須のレンズ,ミラー,プリズム,偏光子,光量計,移動ステージなどを追加購入する。さらに,サンプル調製に必要な試薬,ガラス基板,分子計算ソフトなどの購入を予定している。得られた成果を学会やシンポジウム,論文発表や特許出願など精力的に進める計画をしている。
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