2014 Fiscal Year Research-status Report
金属酸化物不均一光触媒システムの表界面電子状態の理論研究とその検証
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25410245
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
押切 光丈 独立行政法人物質・材料研究機構, 環境再生材料ユニット, 主幹研究員 (20354368)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 光触媒 / 不均一 / 電子構造 / 吸着 / 量子分子動力学 / 助触媒 / ドーピング / 金属酸化物 |
Outline of Annual Research Achievements |
不均一金属酸化物光触媒システムの構成とその全電子構造との関連を、特にその表界面電子状態に留意して系統的・体系的に調べてきた。V, W, あるいはTiを含むいくつかの酸化物の様々な表面における分子の吸着現象や、助触媒の機能や効果、水分解の際の反応液中の電解質の役割について、それぞれのシステムの全電子構造を解明することにより、明らかにしてきた。例えば、YVO4光触媒物質に助触媒としてPtを利用した場合とNiの酸化物を利用した場合とでその機能を理論的に比較し、実験事実との一致を確認できた。白金助触媒による励起電子キャリアの分離機能や反応分子吸着の詳細が明らかとなり、水素原子還元機能が如何に増強されるかのメカニズムのイメージが明確となった。一方、ニッケルが触媒母体中表面に酸化物として取り込まれると、起こりがちな酸素欠損の悪影響を抑えることができると同時に、励起キャリアの局所的分離が可能となるため、酸素と水素の両方が生成され、その生成速度も高められることを突き止めた。また、システムの全電子構造の検討から、酸化チタンの水分解性能は反応液(水)に電解質を添加すると、酸化チタン表面へのアニオンの接触やカチオンの接近により、酸素イオンが酸化されやすい(酸素発生に繋がる)状態を作り出すはずであると推定されたが、このことは一部実験でも確認できた。さらに、WO3やInVO4光触媒と水との不均一系では、前者は表面準位の電子構造が酸素発生のために有利であるが、後者は圧倒的に不利であることが理論的に推測されたが、実験でも検証された。固体の電子構造のみを検討してもこういった予測は不可能であるが、本研究の方法は、未経験光触媒物質を使った場合でも、高い確度でシステム設計することを可能にするものと期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ほぼ当初の研究計画に沿う形で研究が進行しているため概ね順調に研究は進展していると言える。金属酸化物内部あるいは表面へのドーピングの表面電子構造への影響については、YVO4に対してNiをドーピングした系で、水との不均一系を例にとり、詳細を検討した。ニッケル酸化物を担持したYVO4光触媒と水の不均一光触媒システムの室温における全原子・分子運動と全電子構造も第一原理手法で明らかにすることができた。詳細な理論検討の結果、Niが触媒母体中表面に酸化物として取り込まれると、システムをp型に保持したり、励起キャリアの局所的分離が可能となるため、酸素と水素を量論比1:2で発生する水の完全分解を可能にし、その生成速度が高められることを突き止めた。さらに、Niのドーピングは表面で有効であって、触媒母体内部では効果が薄いことも分かり、ドープ位置の最適化の足掛かりとなる知見も得られた。電子構造の類似性からすると、GdVO4と水との不均一光触媒システムにおいても同様の効果があると推測されるが、実際に同様の高い光触媒効率が観測されている。この研究成果は2014年6月19日付で、雑誌The Journal of Physical Chemistry Cに掲載された。一方、表面準位の制御を意図した金属酸化物光触媒の水分解に対する塩の効果に関しては、例えば、酸化チタンと水の不均一系に対して、反応液に炭酸ナトリウムを添加した系について検討し、この不均一系システムの全電子構造の特徴から、酸化チタン表面への炭酸塩の接触やナトリウムイオンの接近により、酸素イオンが酸化されやすい(酸素発生に繋がる)状態を作り出していることが分かった。この成果は、Science and Applications of Thin Films, Conference & Exhibitionで発表した。その原理的理解に立脚すると、これと類似の手法の応用範囲は極めて広く、金属酸化物光触媒の高活性化技術として今後の発展が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度に引続き計算シミュレーションと検証試験を行う。10ナノ立法メートルオーダーの不均一光触媒システムモデルを構築し、室温程度で安定な表面緩和および分子吸着構造を観測し、その全電子構造と実際の光触媒現象との関連をより系統的・体系的に調べる。特に、表面準位の制御を意図した金属酸化物光触媒の水分解に対する塩の効果に関して興味深い知見が得られているため、この周辺を重点的に調べて行く予定である。母体金属酸化物材料の金属イオンの価数、表面酸素の配位数、表面金属イオンと酸素イオンとの距離、また、加える塩の陽イオン価数、その大きさ、配位構造、その濃度と、水分解性能との相関関係を観測し、シミュレーションで得られた電子構造から想定される光触媒機能について検証する。添加する塩としては、前年度までにその効果が確認されてきた、炭酸塩、硝酸塩を中心に据え、余裕があれば、他の塩の影響も検討したい。金属酸化物表面あるいは内部へのドーピングによる表面電子構造への影響も引き続き理論計算により調査し、ホール形成のドーピングの最適化検討や、従来から一般に知られている助触媒のキャリア分離機能を再検討し助触媒原子配列の最適化の検討を行い実験と比較検討する。引続き表面金属イオンの酸素配位不飽和によりバンドギャップが比較的大きく変わり得ると期待でき、反応分子の解離吸着が促進される物質に関してさらに詳細を検討する。以上の研究を通じ、高効率光触媒の設計のための見通しの良い基本概念の創出、流布に努める。
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Causes of Carryover |
旅費必要額が当初予定を超えてしまい科研費からの拠出を断念したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
主に旅費として支出する予定である。
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Research Products
(5 results)