2013 Fiscal Year Research-status Report
居住性に配慮した構内通信環境制御のための電磁波吸収体開発
Project/Area Number |
25420387
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokyo City University |
Principal Investigator |
岡野 好伸 東京都市大学, 工学部, 教授 (10339533)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 透明電磁波吸収体 / 情報保護 / 不正使用予防 / パッチ素子配列構造 / プラチナバンド |
Research Abstract |
本研究は生活の隅々に浸透した携帯通信端末に対して、使用者の日常住環境に配慮しつつ、情報保護や不正使用予防(例えば通信端末によるカンニングの防止等)を行い、適正な通信環境を提供する、電磁波吸収機能を有する採光窓や内装材の実現化を研究目的として実施されている。 近年携帯電話への割り当てで話題となっているプラチナバンド(900MHz帯)等に対し、従来の軽量電磁波吸収体では厚みが8~9cm(入射電磁波の波長の1/4に相当)程度必要であった。これに対し、電磁波を受止める点で同様のメカニズムを有するアンテナ技術を利用したパッチ素子配列構造を用い、厚さ5mm程度(対象電磁波長の1/65以下)にまで薄型化することが可能であることがこれまでの解析及び実験によって確認された。 これを基礎とし、平成25年度においては、プラチナバンドに関して、情報端末利用者の活動・生活環境への制約を最小限度にするため、電磁波吸収機能を有する極薄型で採光性の優れた壁材の試作とその性能の実証試験を実施した。 使用材料としては、特殊な磁性体や誘電体ではなく、ポリカーボネート樹脂板及び塩化ビニル板材を使用し、さらに、タッチパネルなどに使用されている透明導電膜により、パッチ素子配列構造を構築することに成功し、透明電磁波吸収体が実現可能であることを実証した。さらに、実験によって、吸収可能な周波数帯域幅がどの程度になるか検証した。また、電磁波漏えいの抑圧効果がどの程度となるのかについても検証した。 なお、上記の研究成果の一部は独立行政法人科学技術振興機構(JST)主催のイノベーション・ジャパン2013(平成25年8月29・30日)に採択され、出展・展示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
採光・目視を妨げない、薄型電磁波吸収体を実現する技術の基礎となるのは、背面全てを導電性薄膜でコートされた誘電体板の表面に、パッチ素子を配列した単純な構造の電磁波吸収体である。 入射波がパッチ素子と共振した場合、誘電体内部には電磁波エネルギーが集中する。このとき誘電体内部のエネルギー流は入射波のエネルギー流方向と直角な方向に偏向される。さらに、パッチ素子を周期的に配列すると、隣接するパッチ素子同士のエネルギー流が相殺する方向に向く。このため、入射エネルギーは空間には逆流せず、誘電体内に留まる。このとき、誘電体内部には僅かながら必ず損失があるため、電磁波エネルギーは確実に減退していく。 この現象により電磁波吸収量を制御する技術は920MHz帯の電磁波を用いたRFID(無線認証)システム対応の薄型透明電磁波吸収板として実現されており、これを用いることにより、プラチナバンドの一部に対し極めて高い電磁波漏えい抑止の効果があることを実験により、想定より早期に検証することができた。また、電磁波吸収可能な周波数帯域幅や吸収量自体が、使用する誘電体の種類により、どの程度変化するのかも実測することが出来た。このため、電磁波吸収性能の広帯域化に対する実用的具体的な手法が明確になったため。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により、裏面を導電性薄膜で裏打ちされた誘電体板の表面にパッチ素子を配列した電磁波吸収体では、吸収可能最低周波数に対し、次に吸収性能が得られるのは、その3逓倍なることが分かっている。しかし、これでは無線LANやスマートフォンなどの周波数帯に対しては対応できない。 一方、パッチ素子配列構造においては、最低4つの素子の配列があれば、その周辺で電磁波吸収機能が得られることが明らかになっている。そこで、ベースの低域用電磁波吸収体のパッチ素子を裏打ち導電薄膜の代用とし、その上に吸収性能を拡張したい周波数で共振する拡張帯域用パッチ素子配列を積層する方法が考えられる。 この手法は、吸収体厚みが増加する難点はあるが、ベースとなるパッチ配列への影響は殆ど無く、周波数の拡張を随意に行うことが可能となる。 上記技術をふまえて、平成26年度においては、拡張帯域用パッチ配列による吸収周波数拡張技術の実用化と、融通性の検証を行う予定である。この際、拡張帯域用パッチ素子寸法を均一にした場合と不均一にした場合での周波数対応の柔軟性に関する検証も併せて行う予定である。さらに、平成25年度における成果として透明誘電体の中でも、比誘電率が低く損失がやや高めの材料を用いれば、各層自体の吸収周波数帯域の広帯域化が可能であることが確認されたので、使用誘電体の選択による吸収周波数拡張についても併せて検討する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
外部への微弱な漏洩電磁波を正確に測定するためには、通常のメタルケーブルによる電磁波擾乱を低減することが必要となる。このため、計測用標準アンテナと測定器間の接続を光ケーブルで置換可能な光-電界変換対応の測定機を当該研究費補助金にて購入予定であったが、申請時には無かった廉価版機器が新たに登場し、これに購入機種を変更したため。 電磁波吸収体背面への漏洩電磁波を、それ以外の潜在的雑音電磁波から分離し効率的に検出するには、周波数領域での電磁波計測には限界がある。 そこで、平成25年度計画で生じた残額を利用し、すでに可用な状態にあるネットワークアナライザに時間領域解析の機能追加を施すためのその他経費として予算計上する予定である。
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