2014 Fiscal Year Research-status Report
分散評価に基づくデータからの直接的制御器調整法の開発と化学プロセス制御への応用
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25420446
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
増田 士朗 首都大学東京, システムデザイン研究科, 教授 (60219334)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
加納 学 京都大学, 情報学研究科, 教授 (30263114)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | データ駆動型制御器調整 / 外乱抑制 / 分散評価 / 制御性能評価監視 / システム同定 / PID制御 / 適応制御 / 化学プロセス制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,安全で安定なプラント操業を実現するために,事業所あたり数百~数千ある制御器パラメータの調整を効率的に行う手法の開発を目指している.具体的には,操業中の入出力データから直接的に制御器パラメータを調整する手法を開発し,その手法を実際の化学プロセスへ応用することを計画している.平成26年度は,3年計画の2年目に相当し,当初の計画通り,基本アルゴリズムを実用性の観点から改善することや開発した手法の理論解析を進めた.まず,最小分散制御および一般化最小分散制御の制御構造を導入することによって,基本アルゴリズムではあらかじめ設定する必要がある規範モデルを用いない手法を与えた.さらに,分散制御や一般化最小分散制御に基づく手法では既知と仮定する必要がある外乱モデルに対し,事前に推定する手法を与えた.また,制御器パラメータだけでなくプロセスモデルも同時に推定する手法を導き出し,導出した制御器パラメータをモデルを用いて評価できるようにした.また,不安定零点を持つ非最小位相推移系の場合に本手法を拡張することや,操業プロセスで最も広く使われているPID制御器のゲイン調整に本手法を展開することを行った.さらに,制御器パラメータを求めるときに用いる非線形最適化計算の大域的最適解が得られるための条件を導出することやセルフチューニング制御への展開,周波数領域に変換されたデータを用いた手法に関する研究を行った. このように今年度は基本アルゴリズムの実用性を高めるという方針に基づいた研究が大きく進んだといえる.関連する研究業績としては,和文論文採録が6件(うち2件は印刷中),国際会議発表が7件,Tutorial Workshop 講演1件,国内口頭発表が16件と活発に活動することができた.さらに投稿および投稿準備中のものが5件あり,順調に研究業績をあげることができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度の研究計画では,基本アルゴリズムを実用性の観点から改善することを取り組む計画になっていたが,計画通り順調に基本アルゴリズムを発展させることができた.まず,基本アルゴリズムでは出力分散を規範モデルによって与えられる分散と一致させるように制御器パラメータを調整していたが,その手法では規範モデルをあらかじめ与える必要が生じるため,規範モデルの与え方が実際の問題に適用するうえで障害となる可能性があった.これに対し,平成26年度の研究では,出力信号もしくは一般化出力の分散を最小化するという評価基準を用いた制御器パラメータ調整法を中心に研究を進めた.これにより規範モデル伝達関数を設定するという基本アルゴリズムの問題点を解消することができた.また,不安定零点を持つプラントに対して最小分散制御を適用すると内部不安定となるため,一般化インタラクタを導入し,不安定零点の極零キャンセルを起こさず,内部安定性を保障する手法を与えた.さらに,これまでの手法では外乱モデルの情報が必要であったが,その情報を事前に推定する手法を導出した.また,その手法を発展させることによって閉ループ同定の新しい手法となることを示した.さらに本手法を拡張してPIDゲイン調整に適用できるようにし,制御技法の90%を占めるといわれるPID制御器への適用が可能となるようにした. 3年計画の最終年に相当する平成27年度では,開発された手法を実プロセスから得られたデータに適用することを計画しているが,それに向けて計算アルゴリズムを体系的に構築することができており,おおむね順調に研究が進展しているといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度では,実操業されているプラントから取得されたデータに対して,これまで開発した手法を適用することを計画している.現在,世話役をしている学術振興会プロセスシステム工学143委員会ワークショップNo.31において本研究の取り組みを課題の一つとすることがすでに承認されている.実データは,そのワークショップに参加している企業メンバーから提供される予定である.また,本手法によって求められた制御器パラメータを実際に適用することを行い,その制御結果を解析することによって本手法を実問題に適用するうえでの課題を検討する.さらに,平成27年度では,本手法の適用範囲を拡大するために以下の問題についても取り組む. 1) 本手法は,主にランダム外乱としてモデル化された未知外乱の補償を行っているが,実プロセスにおいては混入する外乱に関する情報がある程度既知である場合がある.この場合にはフィードフォワード補償を用いて外乱抑制を行うことが望ましい.そこでフィードフォワード補償器の制御器パラメータ調整を行う手法を今年度の課題として取り組む.また,カスケード制御されたシステムや2自由度制御器が組み込まれた制御ループ,多入出力系としてモデル化されるプロセスに応用できるように拡張することにも取り組む. 2) 本手法では,プロセスモデルを用いずにデータから直接的に制御器パラメータを求めることを行うが,プロセスモデルも正確に同定できれば,得られた制御器パラメータがどのような制御特性を実現できるのか検証でき,応用上メリットが大きい.そこで,プロセスモデルを同時に推定する手法に関し,より推定精度を高める手法について検討する.具体的な検討項目としては,外乱によって励起された信号だけでなく,どのような既知信号を付加すると効果的にプロセスモデルの同定が可能となるのかについて実プロセスモデルを例題にして検討を行う.
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Causes of Carryover |
平成26年度では,平成25年度に開発された基本アルゴリズムを実データに適用していくうえで必要となる課題を解決する計画を立てていた.平成26年度は,そのような当初計画に加えて研究協力者である研究室の大学院生2名に平成27年度で行う予定の内容も取り組んでもらっていた.しかし,それらの学生2名により,当初想定していた以上の優れた研究成果が得られたため,それらの内容を国際会議で発表することとなった.その研究については研究を実施していた学生自身による発表をしてもらうのが望ましいので,大学院生2名の研究成果報告による出張旅費がかかり,次年度使用額を要求する必要が生じた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
10月にフランス,ニースで開催されたIEEE MSC の国際会議で発表した2件の論文発表に伴う大学院生2名の旅費および参加登録費の支出に使用した.
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