2013 Fiscal Year Research-status Report
地震観測記録に基づくアースダムのS波速度の評価と堤体のエージングプロセスの検討
Project/Area Number |
25420477
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
茂木 秀則 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (80261882)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川上 英二 埼玉大学, 地圏科学研究センター, 教授 (50125887)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | アースダム / 堤体の物性 / 地震波の伝播時間 / 経時変化 / エージングプロセス / NIOM法 |
Research Abstract |
本研究では,長柄ダム,東金ダム(独立行政法人水資源機構),荒砥沢ダム(宮城県) の長期間にわたる地震観測記録にNIOM法を適用して、地震波の堤体内の伝播時間の推移を検討した。また、得られた伝播速度から剪断剛性率、ヤング率、ポアソン比を求め、堤体の物性について考察を加えた。その結果、(1) 1987年千葉県東方沖地震では、強震動による堤体の非線形化による伝播時間の増加が確認できること,また,(2) 2011年3月11日東北地方太平洋沖地震の前後において伝播時間に大きな変化はみられず,長柄ダムでは東北地方太平洋沖地震による大きな影響はなかったことが裏付けられること,(3)堤体上部ではダム軸方向成分と比べて上下流方向成分のS波の伝播時間が大きい偏向異方性がみられること,(4) 剪断剛性率は拘束圧の増加に伴い増加する関係を示すこと,また,推定されたポアソン比は0.3程度であり,堤体が不飽和の状態に維持されていることが確認できることが明らかとなった. 同様に,東金ダムの観測記録のNIOM解析によって,(1) ほとんどの地震で明瞭な入射波と反射波のピークが得られ,反射波のピークは入射波の伝播時間よりも小さい伝播時間を示し,法面での反射による複雑な波動伝播性状を反映したものと推察されること,(2) 堤体のS波速度には偏向異方性が認められること,(3) S波の伝播時間は時間の経過に対して直線的に減少する傾向が見られ,この変化は年当たり上下流方向で0.7%,ダム軸方向で0.2%のS波速度の増加に相当すること,(4) 剪断剛性率は10E-5程度の剪断歪から剪断剛性率が低下する傾向が見られること,また,東金ダムでは現在に至るまで堤体材料の明瞭な非線形化は生じていないこと,が明らかになった.これらの結果はダム事業者との協議の後,公表する予定である. 現在は荒砥沢ダムにおける2008年6月(岩手・宮城内陸地震)~2014年3月までのおよそ1300記録を解析中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
・地震記録とダム堤体の情報収集 現在,長柄ダム,東金ダム,荒砥沢ダム,森吉山ダムの地震記録,沈下計の記録等を収集済みであり,長柄ダム,東金ダムについてはほぼ解析を終了し公表に向けての準備と協議を行っている段階である(東金ダムは口頭発表原稿を提出済). ・伝播速度の解析 長柄ダム,東金ダムについては伝播速度の解析は完了しており,設計図書や既存研究と整合する結果が得られており,公表の準備中である.また,荒砥沢ダムについても現在解析中であるが,現在完了している2009年までの結果については安定した解析結果が得られており,岩手宮城内陸地震~東北地方太平洋沖地震~現在2014年3月までの堤体の物性変化が得られるものと考えている.また,堤体内の伝播時間の偏向異方性については,2次元の境界要素法を用いた数値計算を実施する予定であり,現在準備中である.
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Strategy for Future Research Activity |
25年度に引き続き,地震記録の収集と伝播速度の解析を行うとともに, ・同期のとられていない地震記録の解析手法の検討 堤体内の複数の地震計において時刻の同期の取られていない記録も多く存在する.長期間のエージングプロセスを検討するためには,これらの記録も用いて堤体の剛性を調べる必要がある.このための手法として,同期のとられていない堤体上部と下部の地震記録と常時微動の観測結果に基づいて,モード解析や非線形応答解析に基づくインバージョン解析を行い,伝播速度を推定する方法を用いる.この方法は,例えば太田(1975),時松他(2008) のように地盤剛性や非線形挙動の推定に用いられることが多く,アースダムに対しても適用可能と考えられる.実施に先立って、25 年度のNIOM法による解析結果と比較し,精度・時間的な分解能を検討する予定である. ・エージングプロセスのモデル化と地震被害との比較検討 25,26 年度に得られた複数のダムにおける結果に基づいて,竣工からの堤体の剛性変化と竣工からの沈下量や各種土質実験結果と比較するとともに,堤体のエージングプロセスとしてモデル化を進める.また,堤体の剛性とそれから予測される強度と地震被害の比較検討を行い,堤体の維持管理手法や地震時の安全性の評価手法の高精度化に努めたい.・各種土構造物への適用 アースダムは地震観測や圧密沈下量,間隙水圧などの観測体制の整備された土構造物である.本研究で得られるアースダムのエージングプロセスは,堤防や道路の盛土など他の土構造物の維持管理においても有用な情報になるものと考えられる.このため,各種土構造物に関するデータの収集と本研究で得られた「エージングプロセス」の適用性の検討を行う.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究では地震記録の解析との相補的な目的に常時微動の計測を計画しており,そのための計測機器の選定が遅れたことが次年度使用額が生じた主な理由である.現在数社からの計測機器の説明を受けており,本年度中に導入する予定である. 常時微動計測装置の導入するとともに,地震記録の解析を行ったダムについて,微動計測を行い地震記録の解析結果との整合性の確認を行う.
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Research Products
(2 results)