2013 Fiscal Year Research-status Report
郊外住宅団地のオールドニュータウン化とその再生に向けた交通戦略に関する研究
Project/Area Number |
25420546
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
小谷 通泰 神戸大学, 海事科学研究科(研究院), 教授 (00115817)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
秋田 直也 神戸大学, 海事科学研究科(研究院), 講師 (80304137)
田中 康仁 流通科学大学, 総合政策学部, 准教授 (50321485)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 郊外住宅団地 / オールドタウン / 住宅団地の再生 / 交通戦略 / 地区診断 / アクセシビリティ |
Research Abstract |
都市近郊で開発されてきた住宅団地では、近年、居住者が一斉に高齢期を迎え、そのオールドニュータウン化が深刻な問題となっている。こうした中で、自動車の利用が困難となった高齢者の買い物や通院といった生活交通をいかに確保、維持するかが重要な課題となっている。そこで、本研究では、神戸市北区、西区内の住宅団地を対象に、既存の社会経済統計データや交通行動調査データなどをもとにGISを活用し、住宅団地ごとに地区診断カルテを作成し、居住者の生活交通の実態を把握し、オールドニュータウン化による各団地が抱える課題を抽出する。次いで、居住者への意識調査などを実施し、商業・医療施設等の生活関連施設へのアクセスのしやすさ(アクセシビリティ)を評価する手法を開発し、本手法を用いて住宅団地ごとにアクセシビリティを計測する。最後に、診断カルテで明らかになった実態・課題、およびアクセシビリティの計測結果を踏まえて、住宅団地ごとに生活交通を確保、維持するための戦略とそれを実現するための施策パッケージを提案する。 神戸市内では旧市街地が臨海部に広がっており、その背後に位置する六甲山の裏側地域(西区・北区)において、鉄道沿線に沿って、1960年代以降多数の住宅団地が新たに開発されてきた。初年度は、こうした特徴を踏まえて、対象とする住宅団地の開発の経緯を整理しながら、既存統計資料、パーソントリップ調査データを用いて、個々の住宅団地のデータベースを構築した。そして、地形条件・人口構成・施設配置・交通条件・交通行動の各視点から指標を設定し、データベースをもとにGISを活用してそれらの指標を算出するとともに、これらの指標を用いて居住者による生活交通の実態の把握、オールドニュータウン化による問題の構造化、および住宅団地の類型化と類型ごとの課題の抽出を行った。得られた分析結果は、団地ごとに地区診断カルテとして取りまとめた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の目標は、対象地域の住宅団地におけるGISデータベースの構築と、データベースを用いた生活交通の実態、オールドニュータウン化による問題点の把握と課題の抽出であり、それらを地区診断カルテとして取りまとめることである。具体的には、以下の成果が得られている。 まず、神戸市西区、北区の住宅団地(計55団地)を対象に、団地の位置と規模、地形(勾配)、人口構成とその変化、生活関連施設の立地(商業・娯楽施設、医療施設、主要公共施設)、交通サービス(道路網、鉄道駅・バス停・バス運行本数)、交通行動(交通手段別・目的別のOD交通)に関するデータを収集し、データベース化した。特に、生活関連施設へのアクセス距離、交通サービスの利便性などの諸指標については、GISの活用により新たに指標値を算出した。また、多くの住宅団地が斜面に開発されているため、詳細な地形データから、地形の勾配を考慮し徒歩・自転車による移動の際の抵抗(エネルギー損失量)を定量化した。 次いで、開発者(公共、組合、民間)、開発方式(鉄道沿線、幹線道路沿道)、開発時期によりそれぞれの住宅団地に特徴がみられた。また、同じ鉄道沿線型であっても、TOD(公共交通指向型開発)かどうかの違いがみられた。こうした特性を踏まえ、地区の診断カルテでは、地形条件・人口構成・施設配置・交通条件・交通行動の各視点から、生活交通の実態把握・課題抽出のための評価指標を設定し、それらの指標を用いて、生活交通の実態の把握、オールドニュータウン化による問題の構造化、および住宅団地の類型化を行った。 このように、当初の計画は概ね達成しており、こうした成果に加えて、次年度以降に行う、潜在能力アプローチによるアクセシビリティの評価手法の開発をめざして、住宅団地の居住者への生活交通に関わる意識調査を実施した。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は、生活関連施設へのアクセシビリティを評価するための方法を確立する。アクセシビリティは、モビリティと空間配置に分けて明らかにするが、前者のモビリティは、居住者への意識調査結果をもとに、「潜在能力アプローチ」を適用して計測する。この潜在能力アプローチでは、個人が利用可能な「財・資源」と、それらを利用するために必要な個人の「変換能力」で規定される「機能」の集合が「潜在能力」であるとしており、本研究ではこの潜在能力をモビリティと考える。また、後者の空間配置は、構築したデータベースをもとにGISを用いて算出した物理指標(施設への最短距離、施設の立地密度など)を用いる。この場合、特に多くの住宅団地で勾配が問題となっていることから、経路上の勾配による移動抵抗を組み込んだ指標を算出する。そして、モビリティと空間配置のそれぞれからみた評価を総合化して、各住宅団地のアクセシビリティを計測する。これによって、住宅団地の相互比較とともに、団地内での各地点における問題個所の把握を行う。 最終年度は、地区診断カルテで明らかになった各住宅団地の実態・課題、および生活関連施設へのアクセシビリティの計測結果を踏まえて、住宅団地ごとに生活交通を確保、維持するための戦略(モビリティ戦略、空間配置戦略)を定めた上で、それを実現するための施策パッケージを提案する。そして、ケーススタディエリアで具体的な施策の導入可能性を検証する。なお、現実にこうした施策を実施していく上では、地域が主体となって、行政(地方自治体)と連携した取り組みが不可欠である。このために対象エリアにおいて、具体的な施策を取り上げ、社会実験などを実施し合意形成を図っていくプロセスについても検討する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度においては、生活関連施設へのアクセシビリティを評価するための方法を開発することを目標としているが、このために本年度、郊外住宅団地(神戸市西区西神戸ニュータウン)の居住者を対象に、生活交通に関する意識調査を実施した。本調査は、1,000世帯を対象に3,000部の調査票を配布するきわめて大規模な調査である。なお本調査では、世帯ベースで35%というきわめて高い回収率が得られた(一般には15%程度といわれている)。こうした調査の実施作業では、今回、地域の自治会による協力が得られたことや、調査員による調査票の配布作業を効率化することができたことなどから謝金等を節約することが可能となり、この結果次年度への繰越金が生じた。 次年度は、潜在能力アプローチの考え方に基づいて、生活交通におけるアクセシビリティの評価方法を開発する予定であるが、居住者のモビリティの評価のために、本年度実施した意識調査に加えて、その補足調査を実施する予定である。この補足調査では、高齢者を対象に、身体能力に対する意識調査を行い、個々人の身体状況が交通行動に及ぼす影響をより詳細に把握することを予定している。繰越金については、主としてこの補足調査に充当予定である。
|
Research Products
(5 results)