2013 Fiscal Year Research-status Report
交通行動に対する課金・報酬の評価フレームの分析と交通料金政策への示唆
Project/Area Number |
25420551
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
倉内 慎也 愛媛大学, 理工学研究科, 准教授 (90314038)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 交通行動分析 / 交通税制 / 交通料金政策 / メンタル・アカウンティング理論 / プロスペクト理論 / 公共交通 |
Research Abstract |
本年度は,まず過度な自動車利用の抑制を意図した交通料金政策として,ガソリン税制に着目して分析を行った.具体的には,ガソリン税の使途として,一般財源化および道路特定財源化と共に,欧米諸国のように公共交通サービスの拡充や環境政策に充てる環境・交通税を想定し,各税制下での課税額に応じて自動車利用意思決定の背後に潜む心理的損得感がどのように変化するのかを分析した.松山都市圏在住・在勤の72名を対象にインタビュー調査を実施し,メンタル・アカウンティング理論に基づいて分析を行った結果,心理的損得感の判断基準となる参照価格が最も高いのは受容性が最も高い環境・交通税であり,それゆえ,課税額が大きくなっても他の税制と比べて損失感が低いことが判明した.また,現行の一般財源制では,課税額が一定以上になると損失感が急激に高くなる等の結果を得た. 次に,ガソリン税を含む様々な料金政策実施下での交通行動変化について,過年度に名古屋都市圏で実施した小規模社会実験データを用いて分析した.結果,ガソリン税を非常に高くした場合でも,トリップ当りの課金額はそれほど高くないがゆえに行動変化を生じにくいことが判明した.一方,課金水準が5分の1程度になった場合でも,一ヶ月当りの課金額見込み等についての情報を提示することで,ほぼ同等の自動車利用削減効果が得られるとの結果を得た.また,CO2のキャップアンドトレード方式を模した,自動車利用時間のキャップ制を試行したところ,大半の被験者がキャップとして設定した通常時からの25%の削減を達成して報酬を得るなど,高いポテンシャルを有していることを確認した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
過去に実施した社会実験データ等が活用できたため,初年度としては大きな成果を挙げることができたものと考えている.特に,交通税制や料金政策の検討においては,誰から,いくら徴収し,その使途をどのようにするか,等についての組み合わせが無限に存在するため,本年度の分析において,環境負荷の大きい自動車利用に対して課税し,それを公共交通サービスに充当するような「アメとムチ」型の政策,あるいは,キャップ制のように,課金と報酬の双方を含むような政策フレームが望ましいといった知見や,一定期間での課金・報酬額を意識するような政策が効果が大きい等の知見は,検討対象とする政策の方向性を決める上で極めて有意義な知見であると考えている.ゆえに,今後は,それらの政策に絞った上で,利用者の評価メカニズムをより詳細に分析すると共に,併せて都市圏レベルでの効果を試算したいと考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は,ガソリン税に対する評価フレームの分析に際して,メンタル・アカウンティング理論やプロスペクト理論を援用した.しかしながら,通勤行動のように交通行動は繰り返し実施されることが多く,心理学の分野では,そのような繰り返し行動の分析に際しては,プロスペクト理論等の再現性が必ずしも高くないとの指摘がなされている.また,今年度の分析で明らかになったように,一定期間での課金・報酬額を意識するような交通料金政策が効果が大きいため,分析においては,そのような政策の効果を計量できるように,枠組みを拡張する必要がある. 枠組みを拡張する際の方向性としては,学習等を通じて長期的には合理的な状態に到達するという「均衡」アプローチが代表的なものとして挙げられる.均衡アプローチを採用した場合,特に数理モデル化をシンプルに行うことができるというメリットがあるが,本研究課題で対象としている,「認知」や「評価」の動的側面はブラックボックスとして扱われてしまう.そこで,本研究では,動的に変化してゆく様子をそのまま表現するようなアプローチを採用する予定である.このアプローチを採用した場合,モデルの煩雑さが格段に大きくなることが予想されるため,数理的に「認知」や「評価」メカニズム全体をモデル化することは困難である.ゆえに,次年度は,メカニズム全体をモデル化するのではなく,メカニズムのコアとなる参照点等に焦点をあて,それら構成要素の分析・モデル化を随時行ってゆくような積み上げ式のアプローチを採用しようと考えている.
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