2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25420655
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
市岡 綾子 日本大学, 工学部, 講師 (90343574)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 土蔵 / 須賀川市 / 赤瓦 |
Research Abstract |
今年度は,福島県須賀川市の中心市街地に現存する土蔵を可能な限り抽出し,被災状況とその後の修復改修の現状とその意向を把握するとともに,建設当初の使用状況から現況に至るまでの建物用途ならびに増改築等の建物概要全般の変遷に関する聞き取り調査を,建物所有者と対象に実施した。東日本大震災の被災状況においては,比較的軽微な被災に留まった事例と,多くの土蔵に該当する腰壁部分に使用されていたなまこ壁の崩落に伴う半壊以上と認定された事例とに二分される傾向が確認された。前者では,既に震災以前に用途を転用し,私的な利用ではなく,飲食店など土蔵の空間的特性を活かした利活用を行うために,屋根の軽量化と瓦止めなどの改修を行っていたことが大きく影響している。一方後者では,外壁が崩落し,応急的には被害が大きく判断されたものの,土蔵そのものの構造的特性である柱と梁の主要な軸組構造は震度6強の揺れにも耐えており,外観上の判断よりも構造的には問題が少ないことが明らかとなった。建設当初の材料は現在入手が困難なことから,改修時には元通りが望ましいものの,所有者ごとに各土蔵における妥協点を見出し,現況において最良の改修を実施している実態も把握できた。 また,震災前に景観を構成していた主要な材料である須賀川産の赤瓦(益子焼瓦)が,既に生産を中止しており,同じ材料を求めても入手できない問題が生じていたことから,今年度は現存している建設当初に使用されていた須賀川産赤瓦の色彩に対する数量化を試み,直接赤瓦を色彩色差計で測定するとともに,今回新たに購入した色彩輝度計を用いて景観色の測定も行った。修復改修した際に,景観要素である赤瓦の色彩を意識して異なる瓦や他の材料を用いて修景した事例の色彩も事例収集し,住民がイメージする須賀川産赤瓦との相違点に関する検討を行った。今後もさらに事例を追加し,引き続き検討を行う所存である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現存する土蔵に関する現況確認を,目視に基づき可能な限り実施するとともに,震災前には現存していたものの被災により結果的に解体されてしまった土蔵に関する情報の収集も実施し,その後所有者への聞き取り調査を行った結果,各土蔵は所有者による固有の価値観が伴うため,容易に類型化することが難しい実態を把握することができた。また,須賀川産赤瓦の特徴は画一的でなく歴史的な風情として評価される色斑であり,その景観色の測定結果を基準として,修復後に使用した素材の色彩測定結果は比較的類似していた。したがって,修景時に,同素材の入手が困難な場合は,色彩による調和を意識している結果となった。その一方,住民を対象とした景観色や生活景に関するアンケート調査を実施する予定で計画し,交付申請を行ったが,今年度中に実施することができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,住民を対象としたアンケート調査の実施を検討するとともに,歴史的な資源を有効に活用しながらまちづくりを行っている先進事例を収集し,分析を行う所存である。震災以降の復興まちづくりにおいて検討されている方策と,先進事例との比較検討も行いたいと考えている。 須賀川市においては,現在,主要な公共施設が設計ならびに建設されている状況にあることから,復興まちづくりの過渡期にある現況について調査し,従来の歴史的な資源をいかに活用しうるか,いかに次の世代に継承していくべきか,持続可能なまちづくりを目指したシステムをどのように構築すべきか,という課題についても検討を深めていく所存である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の計画では,土蔵所有者への聞き取り調査等に基づき容易に須賀川市の中心市街地における景観色や生活景に関する抽出ができるものと考えていたが,各土蔵にはそれぞれの生活景の変遷があり,単純な類型化が困難な実態を把握した。その一方,ある現存する土蔵の転用事例をケーススタディとして検討した結果,土蔵の特性を活かした多様な転用案が検討され,類型化を行なうことができた。しかしながら,住民を対象とした景観色や生活景に関するアンケート調査を,やむを得ず次年度以降に見送ったため次年度使用額が生じている。 次年度は,主に須賀川市中心市街地における,土蔵などの歴史的資源の分布状況に関する変遷を明らかにし図示化を試みるとともに,近年,まちなみ景観を意識して修景を行なった事例も含めた景観色の収集も同時に行う所存である。さらに住民を対象としたアンケート調査の実施や来街者からみた歴史的資源や景観に対するイメージの抽出と分析,ならびに歴史的資源を活かしたまちづくりの先進事例の収集と分析等に使用する計画である。今年度の調査から,歴史的資源を維持管理するシステムの構築が重要との現況を把握したため,先進事例からそのシステムを類型化し,まちづくりの現況に合わせたマッチングが可能となるモデル化を試みる所存である。
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Research Products
(1 results)