2013 Fiscal Year Research-status Report
地域の文化遺産が被災後の復興に果たす役割に関する研究
Project/Area Number |
25420659
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
板谷 直子 (牛谷 直子) 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 准教授 (90399064)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
JIGYASU Rohit 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 教授 (70573781)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 地域文化遺産 / 歴史的環境 / 東日本大震災 / 復興 / コミュニティ |
Research Abstract |
本研究は、地域に密着した文化遺産である社寺等と人々のつながりの事例から、復興を支える基盤となるコミュニティ存続の知見を得るとともに、高台移転などで生活圏が移動しても、地域の歴史的環境を存続させる方策を検討することを目的としている。 1年目である2013年度は、GIS(地理情報システム)を用いて、東日本大震災の津波による浸水域と社寺等の位置情報を重ね合わせ、被災した社寺等を抽出し、これらを対象に現地調査を行った。また、復興計画の進捗状況を確認し、南三陸町における被災した社寺等の現状と復興の状況を把握した。 現地調査によれば、津波浸水域では社寺等の境内に激甚な被害がみられた。しかし、被災した神社の約6割の本殿には顕著な被害が見られなかった。また、寺院では境内墓地が高台にあり大きな被害がなかった。これは、本堂を滅失しプレハブの仮本堂としている寺院においても同様で、境内墓地は被害を免れている。南三陸町の津波浸水域では、神社の本殿(神さま)、寺院の境内墓地(ご先祖さま)は、安全な高台に立地している。 約3年が経過し、災害復旧工事が進んでいる。沈下した多くの地盤では土盛りが行われている。社寺があったはずの場所が整地され失われているものがある。山裾では塩枯れした樹林が撤去されており、境内樹林も同様である。周辺の整備とともに剥き出しになった神社がある。これらでは、社寺が持っていた地域の歴史文化を象徴する聖なる雰囲気が損なわれている。 約3年が経過したが、社寺を支えてきた地域コミュニティは回復していない。復興計画は徐々に具体化しつつあるが、高台移転を選択し、新たな居住地をゼロから再建する南三陸町において、地域が育んだ有形無形の文化を、今後とも地域社会とともに存立させる方策の検討は進んでいない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
被災地の文化遺産とともにあるコミュニティの価値は、人々の生活と有形無形の文化遺産が一体となったリビングヘリテージにある。しかし、リビングヘリテージの実態は不明確で、阪神淡路大震災の際にもそうであったように、復興の過程で、人々の生活の記憶とともにあった重要なものが、知らぬ間に失われてしまうといった事態を招くであろう。文化庁等によって指定された文化財は修復工事等で存続することができたが、未指定のリビングヘリテージなど歴史的環境は、大規模な災害の後の撤去や都市計画で失われてしまう事例がある。 本研究は、社寺等有形の地域文化遺産の被災状況および修理復旧状況と、関連する人々の居住状況や祭礼等無形の地域文化遺産の実施状況を把握し、地域とともにあった文化遺産が災害時に果たした役割を明確化するとともに、生活圏移転後の歴史的環境を存続する手法を検討しようとするものである。 1年目である2013年度は、社寺等の被災状況および修理復旧状況など有形の地域文化遺産調査と、祭礼等無形の地域文化遺産に関する文献調査を行った。有形の地域文化遺産調査を通して、今後の調査にとって有用なGISデータの整備を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
1年目の成果に基づき、2年目は被災した社寺を対象に祭礼等の実施状況と地域の人々の関連について主に無形の地域文化遺産に関する調査を実施する予定である。 復興の過程には、公共が主導して描く町全体を見据えた復興計画と、地域の人々が行動する草の根的な活動がある。2014年度は、町の復興計画と関連協議会等の動きとともに、地域の人々が行っているまちづくりの取り組みについて把握を試みる。そのうえで、それらの活動における地域の有形無形の文化遺産の位置づけ、地域の歴史的環境の継承との関連性について知見を得ることとする。 これに加えて、激甚な災害の被災地における地域の歴史的環境を存続させる取り組みについて、海外の事例を収集する。そして、最終年度には、これらの知見をもとに地域の歴史的環境を存続する手法について検討を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該年度の現地調査の調査員数が、予定数より減となったため、次年度使用額が発生した。 次年度は、主に無形の地域文化遺産に関する南三陸町現地調査、および、海外事例調査を実施する予定である。
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