2013 Fiscal Year Research-status Report
国際比較からみた近代日本の鉄鋼業都市の盛衰に関する研究
Project/Area Number |
25420664
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
角 哲 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90455105)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中野 茂夫 島根大学, 総合理工学研究科(研究院), 准教授 (00396607)
中江 研 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40324933)
小山 雄資 鹿児島大学, 理工学研究科, 助教 (80529826)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 鉄鋼業 / 都市形成 / 企業住宅地 / 福利厚生施設 / ドイツ・ルール地方 / アメリカ / イギリス |
Research Abstract |
平成25年度は、計画通りドイツ・ルール地方で企業住宅地関連資料の収集と現況確認を実施した。調査に先立ち“Architekturfuehrer Ruhrgebiet 2010”を元に、産業関連施設リストを作製してGoogle Mapで所在地を確認した。その結果、中心的な調査対象都市を、三菱や武藤山治らが福利厚生施策を参照した旧クルップ社のエッセン市、官営製鐵所の建設を担った旧グーテホーフヌンクヒュッテ社のオーバーハウゼン市とした。また、製鉄工場と産炭施設が同居するのがこの地方の特徴のため、国立鉱山博物館などボーフム市の旧産炭施設でも情報収集をした。 前者ではクルップ社の資料館Historisches Archiv Kruppの研究員の助言を得て、図面集や配置図の閲覧と複写を行なった。また、Margarethehoehe(1909-28)などの住宅地の現況確認を行なった。後者ではGHH社の住宅地であるEisenheim(1845-1901)やBeamten-Siedlung(1910-23)の現況を確認した。その過程でM.Gropius設計の病院や住宅地Glueck-auf-Siedlung(1907-13)では“Die Wohlfahrtseinrichtungen der Gutehoffnungshuette 1912”掲載の保育園などの現存を確認した。 これらの施設は構造や材料などが日本の施設と大きく異なる。しかし、建物の種類や機能など計画的な視点や福利厚生施策に着目すると、日本企業がドイツの施策をどのように捉え、消化し、従業員に供給したのかを理解することが可能であろう。また、一般的に斜陽化が避け難い鉱工業都市の産業施設活用方法として、エムシャーパーク事業のほかにも高い持続性を有した住宅地などもあり、その運用と評価の方法は日本で今後の産業遺産のあり方を考える上で参考になる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は、当初の研究計画の通りドイツに渡航し、クルップ社の福利厚生施設関連資料の収集と現況調査が実施できた。しかし、クルップ社の資料館では、現地調査によって当初存在を知り得なかった資料の所在が明らかになり、それら資料のリストは入手できたが、時間的制約から実際に全てを閲覧することはできなかった。もともと配置図などの資料の入手を目的にクルップ社の資料館を訪ねたが、施設や運営方法などの詳細を把握するためには、こうした文献を確認しておく必要も感じた。 また、オーバーハウゼン市に関しては、日本で確認できる資料を収集して予定通り現況確認を実施できた。しかし、現地調査で“Architekturfuehrer Ruhrgebiet 2010”には掲載されていないグーテホーフヌンクヒュッテ(GHH)社の住宅地の存在が明らかになり、該当地区の現況を確認したものの詳細を把握するには至らなかった。本研究助成の申請時点ではクルップ社に重点をおいていたが、ケルン市の資料館が保管するGHH関連資料を把握することで、日本への影響という観点での国際比較の深度が高まると考えるに至った。 一方、本研究での比較対象となる日本の鉄鋼業の事例については、代表者が過去に採択された現新日鐵住金(株)広畑製鐵所に関する若手(B)の成果を発展させた内容を、中江・角・中野・小山の本研究組織4名の連名で日本建築学会計画系論文集に「日本製鐵(株)広畑製鐵所の社宅街開発における住宅営団の関与と臨時農地等管理令の影響について」を投稿し、2014年1月に掲載された。このほかにも同論文集に1編の論考を投稿済みである。 以上の通り、平成25年度は当初計画の通り順調に進展したが、新たに今後の課題も見いだしたため「おおむね順調に進展している」と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
申請時の計画では、平成26年度の計画にアメリカのUSスチール社関連の調査を、平成27年度にイギリスのアームストロング・ウイットウォース社とビッカース社関連の調査を実施する予定であった。しかし、平成26年度の途中で分担者のひとりがイギリスへ在外研究の予定となったため、実施年度を入れ替えて実施し、研究費を有効に活用することとする。 研究の方法についてはドイツでの調査を踏襲して、“Morgan Park”や“Company Town”などの既往研究から対象都市を決定し、旧企業住宅地の運営を確認している団体の助言を得つつ、資料の収集と現況確認を実施する。その際、図面資料や古写真に留まらず、会社案内などの資料も収集し、日本企業の福利厚生施策と比較する。 平成26年度は、これまでの研究成果の一部を公表している日本製鋼所の福利厚生施策との比較を試みる予定である。同社は、1907年に北海道炭礦汽船株式会社とアームストロング・ウイットウォース社とビッカース社の3社の共同出資で設立した会社であり、工場をはじめ福利厚生施策に至るまで影響を受けていると予想している。これまで確認できている範囲では、ドイツ同様に建築の材料や構造の点では日本と大きく異なるが、従業員に提供された施設の種類や機能面で共通点を見いだしたい。以上が本研究の当初の目的であるが、発展的に捉えるならば、北海道炭礦汽船は、日本製鋼所設立に先だって夕張をはじめ北海道内で多くの炭鉱を経営していたため、英国2社の参入前後の施策に注目することで、海外企業から受けた影響を把握することも可能であると思われ、そうした視点での国内調査も進めていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究では、申請時にネットッワークサーバーを購入してデータを共有する予定であったが、予定していた機器の販売が終了したこと、無料のクラウドシステムなどが発達したため、こうしたサービスを利用したことから、当該機器の購入を見送った。また、本研究費では現有の機器を使用することを前提に特別な設備機器を購入することなく交付決定額の93%を旅費に充てているが、代表者、分担者全員が、ほかの調査と期間を区分してドイツに渡航し、往路/復路で財源を分けて執行したため、旅費執行額を当初の見込みよりもおさえることができた。さらに、購入を予定していた資料(消耗品のため申請時には「その他」としていた)のうち、日本で閲覧できるものは貸借して閲覧したため購入を見送った。こうした理由により、次年度使用額が生じた。 年度報告の通り、平成25年度の調査で所在が明らかになった資料があった。こうした資料を本研究に反映させることは、申請時の計画を超えるものの、研究をより発展させるため、必要に応じて国内外にある資料の調査や貸借などによって収集したい。繰越し額はそのための旅費や複写代、送料として使用することを予定している。また、平成26年度も海外調査を予定しているが、消費税率があがったこと、昨今燃料サーチャージが高騰していることに伴い、格安航空券を用いても旅費が嵩む可能性がある。よって、期間を短縮することなく調査の充実を図るための旅費としての使用も予定している。
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