2014 Fiscal Year Research-status Report
国際比較からみた近代日本の鉄鋼業都市の盛衰に関する研究
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25420664
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
角 哲 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90455105)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中野 茂夫 島根大学, 総合理工学研究科(研究院), 准教授 (00396607)
中江 研 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40324933)
小山 雄資 鹿児島大学, 理工学研究科, 助教 (80529826)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 近代産業都市 / 鉄鋼業 / 労働者住宅地 / イギリス / フランス / 都市再生 / 田園都市 / 都市計画 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、労働者住宅地に着目して独英米日の鉄鋼業都市の形成過程における企業の開発理念と役割の比較、海外の先行事例が日本の企業に与えた影響の2点を把握し、日本の産業都市の特徴の一端を把握しようとするものである。産業都市は、往々にして産業転換を理由に斜陽化するが、持続可能な都市や再生の手法にも着目する。 当初は、2年目はアメリカ調査を予定していたが、分担者1名が英国に在外研究中であったため、費用の効率的な運用を目的に、3年目に予定していた英国調査を先行して実施した。また、余裕がでた渡航費で代表者と分担者1名が仏国の調査も実施した。その成果は大きく3点にまとめられる。 (1)英国中西部のBarrow-in-Furnessで日本製鋼所(北海道室蘭市)の設立に参加したVickers社の労働者住宅地であるVickers Townの現地調査を実施した。また、Barrow Library併設のCumbria Archive and Local Studies CentreでVickers社旧蔵のVickers Townの配置図や古写真Vickers社の会社案内などを収集した。これにより、企業の理念や労働者住宅地の運営方法、その空間構成を理解できた。 (2)英国中東部のMiddlesbrough郊外のDormans Townの現地調査を実施した。また、MiddlesbroughのTeesside ArchiveでDrmans Long社旧蔵の配置図を中心にDomans Town関連資料を収集した。中にはMiddlesbrough市街地の形成過程を把握できるものもあり、労働者住宅と中心市街の関係を空間的に理解できた。また、在外研究中の分担者が別途資料調査を実施し、開発の背景などを把握した。 (3)仏国で生産業を主とするパリ近郊のNoisiel、南東部のLe CreusotとMulhouseの3都市を調査した。Noisielは産業化初期、Le Creusotは斜陽化した状態からの再生、Mulhouseは現役の自動車製造を主とする産業都市であり、時代や都市の性格を異にする点で労働者住宅の運営方法の差異を理解できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
調査訪問地の入替えはあったが、当初予定していた英国調査を予定通り実施したため、「おおむね順調に進展している」とした。特に、英国調査の主対象であったVickers Townについて、配置図のほかVickers社の会社案内や古写真、住宅図面など、多くの原資料を収集できたことは、今後、詳細な比較検討をする上で有用であり、MiddlesbroughやDormans Townの都市形成を追うに足る資料の収集も一定の成果と考えている。さらに、分担者1名が在外研究で収集した資料も2014年度の成果のひとつである。もちろん、時間的な制約から資料を取りこぼしなく把握できたとはいえないが、基本資料は収集したと判断している。 また、比較検討の根幹をなす日本の鉄鋼業都市について、企業側の視点で論文1編(日本建築学会計画系論文集)を公表したほか、都市計画に着目して同論文集、都市計画学会の英語論文集(URPR)に各1編を投稿した。このほか、2014年度調査の成果として、Dormans Townに関する論考を準備中である。当面は、個別事例に関して考察を行なった上で各国の産業都市形成の共通点と相違点を整理し、各国を比較した論文を公表することを目標する。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年の2015年度は、米国鉄鋼業都市の調査と資料収集を実施する。対象は、U.S.Steel社の本拠地であるPittsburghが中心である。労働者住宅地の中心であるMonongahela川左岸のHomestead地区に関する情報収集を行なう。当該地区は産業の斜陽化により一度荒廃しているため、産業都市の再生事例としても注目されており、独国Ruhrgebietや仏国のLe Creusotなどとあわせ、現代の視点から比較も可能である。当該地区の基本情報は、William Serrinが"HOMESTEAD GLORY&TRAG"(1992)としてまとめており、入手済みである。 また、PittsburghとErie湖を望むClevelandの中間ほどにYoungstownがあり当地も鉄鋼業都市として有名である。Sherry Lee LinkonとJohn Russoが"Steeltown USA Work and Memory in Youngstown"(2003)にまとめており、入手済みである。但し、いずれの著書も郷土をひもとく一般史的色合いが強いため、地図や建築や都市に関する写真など都市空間を把握し得る資料の収集に重点をおく。なお、米国国内移動の問題から後者の現地調査の可否は、前者の調査状況に鑑みて検討する。 ところで、アメリカは近代産業や都市計画という点では後発の地域である。これまで、19世紀末から20世紀のはじめにかけての労働者住宅地の開発には、英国を嚆矢とする田園都市や近代都市計画手法が用いられているため、航空機の経由地であるNew Yorkの近郊住宅地で同時期に計画された住宅地の調査も実施したい。基本情報としては、これまで参考にしたRobert A.M. Sternの"Paradise Planned The Garden Suburb and the Modern City"(2013)を参考し、最終的な比較検討の材料とする。
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Causes of Carryover |
当初計画では、2014年度に米国調査を行なう予定であったが、分担者1名が在外研究で英国に滞在していたため、2015年度の英国調査を先行して実施した。よって、分担者1名の旅費が圧縮できたほか、ホテルをルームシェアするなどして経費節約に努めたため、次年度使用額が生じた。なお、米国調査が最も旅費を要するため2014年度の配分額が最大であったが、英国調査は米国調査の必要額ほど旅費がかからなかったことも影響した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2015年度は配分額が最小であるが、3年間で最も旅費を要する米国調査を実施するため、繰越分をその旅費に充てる予定である。但し、米国調査でもホテルのルームシェアをするなどして経費節約に努める。その他、論文投稿料として使用する予定である。
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Research Products
(1 results)