2015 Fiscal Year Research-status Report
濃尾地震などの大規模地震による建築被害とその影響に関する建築史的研究
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25420667
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
西澤 泰彦 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (80242915)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 濃尾地震 / 明治東京地震 / 庄内地震 / 陸羽地震 / 明治芸予地震 / 姉川地震 / 震災予防調査会 / 被害報告 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、研究対象とした大規模地震とこれらの前後に起きた地震との比較をおこなうため文献調査と庄内地震の被災に関する現地調査をおこなった結果、次のことが判明した。1)昨年度までの調査で濃尾地震の被害調査が迅速におこなわれていたことが判明していたが、濃尾地震の2年前、1889年に起きた熊本地震において、熊本県が詳細な被害報告(『公文雑纂』所収)を作成し、これが地震被害統計の嚆矢であることが判明した。2)明治東京地震では東京で工場の煉瓦造煙突が多数被災したことが判明しているが、それだけでなく、横浜山手でも洋館の煉瓦造煙突が多数被災したことが判明した。これに対して、在日ドイツ人建築家ゼールが鉄筋を用いた補強案を提案していた(“Japan Weekly Mail”掲載)。3)明治芸予地震において、広島県が農務省に送った被害報告と震災予防調査会がおこなった被害報告では、海軍呉鎮守府内の被害状況に大きな食い違いがあり、前者は被害状況を過小に報告していた。4)陸羽地震は直後の1896年10月27日に秋田県が家屋建築に関する諭達「震災家屋の修繕に就いての注意」(『秋田県報』1036号、194頁掲載)を発し、屋根の軽量化、柱梁のボルト締めによる補強、筋違挿入などの建物の耐震化を促していた。5)庄内地震で被災した酒田市内の建物を視察した結果、被災後に建てた寺院・神社建築に多数の筋違が使われていること、また、被災しなかった寺院本堂は断面の大きな部材を軸部に用いていることが判明した。6)これらの成果を活かして「明治時代大規模地震被害実態一覧」を作成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度から継続しておこなってきた大規模地震に関する文献調査は予定通り進捗している。特に、平成25年~27年度の文献調査の結果、明らかになった5点は研究開始時には想定していなかったため、大きな発見である。1)濃尾地震によって確立されたといわれてきた被害調査報告が、その前に起きていた熊本地震によって確立されていたこと。2)明治東京地震における震災予防調査会撮影の被災写真が国立科学博物館研究部に保管されていたこと。3)庄内地震における被災建物調査によって補強のための筋違の挿入が確認できたこと。4)陸羽地震後に震災予防調査会が示した被災建物の具体的修理方法を秋田県が『秋田県報』を通じて広く示したこと。5)明治芸予地震後、広島県が工場設置条例の改正をおこない、工場建築の耐震化を図ったこと。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、研究の第3段階として、それぞれの地震の後に提案された耐震化方法の把握と耐震化方法の分類をおこなう。特に、平成25~27年度で明らかになった5点を中心に、次の2点をおこなう。 1点目、それぞれの地震に連動して提案された耐震化方法を詳細に把握していく。特にそれぞれの地震直後に被災建物に対して提案された修理方法の把握に努める。 2点目、それらを内容に応じて、継続性のある方法と一過性の方法とに分類し、その特徴を把握していく。そして、「明治時代後半に提案された耐震化方法一覧」を作成していく予定である。
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Research Products
(5 results)